【和田彩花のカイエ・ド・あーと】第9回 「わからない」絵画

「わからない」絵画
最近、「わからない」絵画に出会いました。この「わからない」は、第一に感じた作品と作家さんの芸術的な立ち位置が捉えきれない「わからなさ」と、その後、捉えきれない「わからなさ」にむしろ魅了されていったという2つの意味が込められています。
今回は、ワタリウム美術館で開催中の「梅津庸一展 ポリネーター」展で出会った「わからない」絵画、梅津庸一さんの《フロレアル ー汚い光に混じった大きな花粉》についてお話しをしていきたいと思います。
「梅津庸一展 ポリネーター」展示風景より 《フロレアル ー汚い光に混じった大きな花粉》 2012-2014 愛知県美術館所蔵 Photo by Fuyumi Murata
まず、少し離れた距離から画中の人物を見たとき、滑らかな肌と立体感に目を奪われました。伝統的な西洋絵画で描かれる裸体表現を想起させられました。しかし、作品に近づいてみると印象主義の画家たちが用いたような色彩の分割や点描のような手法で描かれていることに気づきます。
さらに、これらの人物表現とはまた別の層として、画面全体に抽象画のように様々な色彩が散りばめられており、西洋美術の伝統や革新なる描写がカンヴァス上で交差し、幾層にも重なっているようでした。
また、元となった絵画の人物に自分を置き換えている点を含めると、オマージュのようにも感じられますが、そもそも個人を特定しにくい絵画の中の女性のヌードに自分を当てはめたり、伝統も革新も混在していたりする画面を、オマージュという手法では捉えきれないなと感じたり。
それは、歴史が過去のものとなった上での作品制作というよりも、まだ乗り越えていない歴史の意識と今というような形で表現が出てくるようでもありました。
梅津さんは、エドゥアール・マネが築いた近代美術という歴史の延長線上で、制作している方だと感じました。様々な矛盾を抱えたまま作品にできてしまう、捉えがたいところもマネの作品や人物像に重なったりして。
いつでも美術は自由で、慣習的なものさえ乗り越える力があると信じ切っていましたが、梅津さんの作品を見ていると、自分が疑うこともなかった現代美術の慣習なるものの片鱗が見えてきそうでした。
わかりやすさが溢れるこの社会で、美術の世界で(?)、「わからない」梅津さんの作品はかけがえのない存在です。
<ココで会える>
ワタリウム美術館は2020年に開館30周年を迎えた、現代アートを専門とする私立美術館。現在、「梅津庸一展 ポリネーター」が開催中。初期作品から近年の陶芸作品までを一堂に展示。2022年1月16日まで。
ワタリウム美術館公式サイト
和田彩花1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術に強い関心を寄せる。
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