【和田彩花のカイエ・ド・あーと】第8回 8枚のグレイ

8枚のグレイ

金沢21世紀美術館のコレクションの一つ、ゲルハルト・リヒター《8枚のグレイ》。

展示室に入って、左右に4枚ずつグレイが設置されていました。各画面の高さ320cm、横幅が200cmという大きさが8枚組で並ぶ、スケール感に驚きました。展示室に入ってから2、3歩歩いたときには、大きさで鑑賞者の心を揺さぶろうとしているわけではない感覚が面白く感じられました。例えば、空間にひっそりと佇む静けさのような雰囲気や、教会に入ったときのような緊張感などが空間に漂っている点です。とはいっても、このグレイがどんなグレイなのかわからない距離にいたので、さらに作品の近くまで歩いていきました。

ゲルハルト・リヒター《8枚のグレイ》
ゲルハルト・リヒター《8枚のグレイ》2001年
エナメル塗料を施したガラス、鋼鉄製部品 各H320×W200×D30cm(8点組)
金沢21世紀美術館蔵 
© Gerhard RICHTER   photo: WATANABE Osamu

このグレイは、ガラスに施されたグレイだそうです。横から作品の側面を見ると、確かに透き通った素材でした。

作品の正面に立ってみると、なんの変哲もないグレイという印象です。例えば、これが一般的な絵画で絵の具の灰色を塗っていたとすると、どんなに抽象的な表現でもカンバスの表面上にはざらっとしているのか、ツルツルしているのか、筆の後が残っているなどの質感が見えてくると思います。ところが、本作品は、表面上に何かが施されているというよりも、グレイという色がどこからか見えてくるだけのようでした。

また、壁に作品が掛けられているため、絵画を見るようなつもりで作品の前に立ちましたが、画面上にはもちろん何の質感も見えず、作品に自分の姿が写っていることに気づきました。作品に反射する自分の姿を見てようやく、素材がガラスだと改めて気づきましたし、作品を見ているのか、ガラスという素材を見ているのか、はたまた自分を見ているのかが曖昧になっていきます。

何を表現したいかわからないという感想が飛び出そうな表現でありますが、絵画を通して何をどう見るかを考えさせられる点で、物の見方を変えてきたこれまでの絵画の歴史の延長線上にくる作品だと感じました。

リヒターの作品は、画面上の抽象表現を見ること以上に、鑑賞者のものの見方をずらしたり、または、ずらされた作為の中に鑑賞者が迷うことで見えてくるものにこそ意味がありそうです。

<ココで会える>
2004年に開館した金沢21世紀美術館は、展覧会、コレクション、プロジェクトを通して現代美術を体感できる美術館。コレクションでは、アニッシュ・カプーア、エルネスト・ネト、オラファー・エリアソン、草間彌生など国内外の現代美術作家の貴重な作品がそろう。現在、特別展「ぎこちない会話への対応策—第三波フェミニズムの視点で」「フェミニズムズ / FEMINISMS」が開催中。2022年3月13日まで。
金沢21世紀美術館公式サイト

和田彩花
和田彩花1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術に強い関心を寄せる。

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