【和田彩花のカイエ・ド・あーと】第7回 心に残るモディリアーニ

心に残るモディリアーニ
長く縦に伸びた輪郭と首、塗りつぶされたアーモンド型の目、個性的な人物像が印象的なモディリアーニの作品。
飛鳥時代の仏像を前にしたような人の描き方に、個性的だなという感想ばかりで、それ以上に興味を持っていく機会がなかなかありませんでした。
先日、「ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス」展に足を運んだ際、モディリアーニの《ルネ》という作品がとても心に残りまして、この記憶をどこかに残したいという気持ちから今に至ります。
とはいっても、やっぱり細長い輪郭、引き伸ばされた首、なで肩、青色に塗りつぶされたアーモンド型の目など人物表現における造形的特徴はこれまで持っていた印象と変わりませんでした。縦に引き伸ばされたようなイメージから、どことなく不安な心持ちにさせられる印象も持っていたのですが、作品を前に、色彩に目を向けてみたところ、髪とネクタイと椅子の背面の赤色や目と背景、ジャケット、シャツの青色の変化と組み合わせでバランスが取られていることに気づきました。
アメデオ・モディリアーニ《ルネ》 1917年 油彩/カンヴァス
本作のモデルは、モディリアーニの妻ルネ・グロだそうです。
耳横ほどの長さで切りそろえられた髪に、ネクタイ、ジャケットのイメージは、第一次世界大戦頃からパリで流行した「ギャルソンヌ・スタイル」と言われています。これまでの絵画に登場してきた女性像とは明らかに違った個性の「ギャルソンヌ・スタイル」の人物をモデルにしてはいるものの、モデルの個性や人柄を捉えようとするよりも、造形への関心が印象的で、画家が何を描きたかったかを考えさせられます。
ここまで造形の話ばかりになっていましたが、青色で塗りつぶされた目はモデルの内面に入ることを許さないのに、喜怒哀楽の感情を超えたもっと普遍的な人間の姿について考えられそうな点や、長く緩やかにしっかりと引かれた輪郭線からは中世の絵画を想起させられ、歴史的文脈が漂うところもモディリアーニ作品の魅力です。
モディリアーニの芸術的な関心の深さを感じるたびに、エコール・ド・パリの画家たちが様々な土地からパリに集まったことや戦争という国家間の出来事を経験した背景から、画家のアイデンティティはどうであったかを考えずにはいられません。
<ココで会える>
Bunkamura ザ・ミュージアムにて開催中の展覧会「ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス」に出品中。本展は、ポーラ美術館のコレクションより印象派からエコール・ド・パリの時代にフランスで活躍した人気画家の絵画74点を厳選し、当時のパリジェンヌたちが愛用したアール・ヌーヴォーとアール・デコの化粧道具12件とあわせて紹介。フランス絵画の巨匠28名の名作が一堂に集結する。チケットは土日や会期終盤は事前予約制。11月23日まで。
「ポーラ美術館コレクション展 甘美なるフランス」公式サイト
ピエール・オーギュスト・ルノワール《レースの帽子の少女》 1891年 油彩/カンヴァス
和田彩花1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術に強い関心を寄せる。
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