【アンナさんのイタリア通信 ♯1】ダミアン・ハーストと古典の出会い ローマ・ボルゲーゼ美術館

Reclining Woman (横たわる女性)
2012年
ピンク マーブル
プライベートコレクション
Ph. by A. Novelli © Galleria Borghese – Ministero della Cultura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved DACS 2021/SIAE 2021
ローマ在住の展覧会コーディネーターで、日伊双方の文化事情に詳しいアンナラウラ・ヴァリトゥッティさんが、イタリアの最新のアート事情をリポートしてくれることになりました。第1回は注目の現代アーティスト、ダミアン・ハーストの個展の紹介です。
ダミアン・ハースト Archaeology now (現代の考古学)
2021年6月8日から11月7日の会期で、ローマのボルゲーゼ美術館で「ダミアン・ハースト Archaeology now (現代の考古学)」展が開催されています。
ハーストの「Treasures from the Wreck of the Unbelievable (「アンビリーバル号からの宝物)」シリーズからブロンズ、カララ大理石、マラカイトなどの彫刻と共に、2016年に発表した「Colour Space」シリーズの絵画を含め、全部で80点以上の作品が展示されています。「アンビリーバル号からの宝物」は2017年にヴェネチアで開催された個展で、2000年前にインド洋に沈んだ船の宝物を、ハーストが海底から発掘して展示する、というフェイクストーリーで話題を集めました。

「Hydra and Kali 」(イドラ&カーリー )
2015年
ブロンズ
プライベート コレクション
Ph. by A. Novelli © Galleria Borghese – Ministero della Cultura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved DACS 2021/SIAE 2021 (※「Hydra and Kali」 は屋外で公開されています)
アンナ・コリヴァ(Anna COLIVA)とマリオ・コドニャート(Mario CODOGNATO)のキュレーションによる本展では、ボルゲーゼ美術館の収蔵品とハーストの作品との間の対話に焦点が当てられています。
ハーストの作品、特にボルゲーゼ美術館の一階に出品されている彫刻作品は、素材やイコノグラフィー(図像学)の実験を求めているように見えます。実際、ハーストは、半貴石、銀、金などのさまざまな素材を用い、古代エジプト、ギリシャ、ローマ文明の歴史から得られたイコノグラフィーを下敷きにして、自身の考察を加えています。

Female Archer (女性射手)
2013年
ブロンズ
プライベートコレクション
Ph. by A. Novelli © Galleria Borghese – Ministero della Cultura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved DACS 2021/SIAE 2021
例えば、メデューサのイコノグラフィーを様々な素材で再現して提案するハーストの「The Severed Head of Medusa」というシリーズからの3点がカラヴァッジョの間に並べて展示されます。また、エジプトの間に展示するために特別に作られたと思われるハーストの「Tadhukeba」が古代エジプトの像と一緒に楽しめます。

Tadukheba(タドゥキパ)
2010年
ブロンズ
プライベート コレクション
Ph. by A. Novelli © Galleria Borghese – Ministero della Cultura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved DACS 2021/SIAE 2021
ベルニーニの「プロセルピナの略奪」は、代わりに「Cerberus」と対話し、ハーストの「Five Grecian Nudes」は、女性の美を完璧に表現したカノヴァの「ポーリーヌ・ボルゲーゼ」が展示されている部屋にぴったりと収まっています。

「Cerberus (Temple Ornament)」(ケルベロス)
2009年
ブロンズ
プライベート コレクション
Ph. by A. Novelli © Galleria Borghese – Ministero della Cultura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved DACS 2021/SIAE 2021

Paolina Borghese Bonaparte as Venus Victorious(ヴィーナス・ヴィクトリックスとしてのパオリーナ・ボルゲーゼ)
カッラーラ大理石
ローマ、ボルゲーゼ美術館
&
ダミアン・ハースト
Five Grecian Nudes (五人のギリシャヌード)
2012年
ブロンズ
プラダコレクション
Ph. by Alberto Novelli © Galleria Borghese – Ministero della Cultura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved, DACS 2021 / SIAE 2021

Fern Court (緑の下草)
2016年
キャンバスに家庭用グロスペイント
プライベート コレクション
&
ダミアン・ハースト
The Skull Beneath the Skin (皮膚の下の頭蓋骨)
2014年
レッドマーブル、ホワイトアゲート
プライベート コレクション
Ph. by A. Novelli © Galleria Borghese – Ministero della Cultura © Damien Hirst and Science Ltd. All rights reserved DACS 2021/SIAE 2021
今回の企画展を通じてボルゲーゼ美術館の学際的な対話の試みは、来館者に想像力と創造力に富んだ努力を求め、ミュージアムを新しい創造的な刺激の場と考えることを恐れない実験主義を受け入れるように誘っています。
<アーティストについて>
ダミアン・ハースト(1965年、ブリストル生まれ)は、1990年代頃、「Young British Artists(YBAs)」というアートムーブメントのメンバーとして一般に知られるようになりました。この運動を強力にサポートしたのが、イギリスのロンドンにある同名のギャラリーの創設者である美術商チャールズ・サーチ(1943年、バグダッド生まれ)です。このギャラリーのパトロンの下で、現代美術のシステムが激変しました。 ダミアン・ハーストは、現代アート市場を支配するような、高い創造的表現力を持つリーダーとなりました。
<公式サイト>
https://galleriaborghese.beniculturali.it/en/exhibition/damien-hirst/
<開催概要>
会期 2021年6月8日~11月7日
会場 ボルゲーゼ美術館 (Piazzale Scipione Borghese 5、ローマ、イタリア)
観覧料金 15 ユーロ
休館日 毎週の月曜日
お問い合わせ +39 0667233753
アンナラウラ ヴァリトゥッティ(Annalaura VALITUTTI)さん
1975年、イタリアのサレルノ生まれ。ナポリ東洋大学で日本語日本文学を専攻し、「遠野物語」及び「オシラサマ」を専門とする。仕事で数年間日本に滞在し、2011年には東京の慶應義塾大学に留学する。日本芸術や民俗学について特別な関心を持ち、ローマで読売新聞の美術展のコーディネーターやアートアドバイサーとして活躍している。
(読売新聞美術展ナビ編集班)