【和田彩花のカイエ・ド・あーと】第4回 モリゾの描く《バルコニーの女と子ども》

モリゾの描く《バルコニーの女と子ども》

ベルト・モリゾは19世紀のパリで印象主義の画家として活躍しました。
本連載第一回の記事で取り上げた作品、エドゥアール・マネの《バラ色のくつ(ベルト・モリゾ)》のように、モリゾはマネ作品のモデルを務める機会がしばしばありながら、画家として絵を描く立場でもあった人物です。

今回は、そんなモリゾが1872年に制作した《バルコニーの女と子ども》についてお話しします。

本作は、シャイヨー宮にほど近い家のバルコニーから女性と子どもがパリの景観を見渡す様子が捉えられているようです。画面全体は、なめらかな筆使いで描かれていますが、バルコニーの手すりが画面を斜めに横切る構図や画面奥にはパリの建築物が見えるなど細部も丁寧に描きこまれています。

ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》
ベルト・モリゾ
《バルコニーの女と子ども》
1872年 油彩・カンヴァス 61.0×50.0cm
石橋財団 アーティゾン美術館蔵

画面全体のなめらかな筆使いに対して、バルコニーにいる子どものドレスや女性が手に持っているピンク色の傘には、大きめの筆触が用いられ、生き生きとした絵の具を感じられるのではないでしょうか。特に、女性が手に持つピンク色の傘は、画面右上の花の色彩と呼応し、画面にアクセントを与えています。

また、バルコニーの床、町の景観、空の淡い色調の中に置かれた女性の黒色のドレスも印象的です。黒色のドレスといえば、マネが描くモリゾ像は、黒色のドレスを着用していることが多く、輪郭線をしっかり取った平面性の中で輝く黒色が魅力的です。モリゾが描く立場で、マネと同じように黒色のドレスを扱うとき、マネほど輪郭線を取らず、なめらかな筆使いで対象を捉えようとしていますね。描かれる立場と描く立場でモリゾは何を思ったのでしょうか。

最後になりますが、画中の女性像についてこの記事を読んでくださっている皆さんはどう感じられますか?

顔を子どもの方へ向けてはいるものの表情や感情があまり見えてきません。口元の描き方はぼんやりとし、目線はなんとなく子どもの方を見ているといった具合でしょうか。私はそんな女性像に内省的な雰囲気を感じたりしています。

本作が制作される前年まで続いていた普仏戦争やパリ・コミューンでの惨事という背景を考えると、バルコニーから広がるパリの景観も華やかな近代都市の姿とは異なる側面が見えてきますし、景観を見つめる眼差しも輝くものばかりではないのかもしれません。
または、女性が画家の道を歩む困難や、モリゾとともに画家の道を志していた姉エドマの結婚によって希望を見失ってしまう苦悩などを思うと、子どもに向かう曖昧な描写に当時の女性の立場にまつわる葛藤が浮かんできそうです。

現代を生きている私ですが、モリゾの抱えた苦悩を自分の身を持って感じる機会がしばしば訪れてから、モリゾの描く女性像に思いを馳せる時間が増えました。休日の楽しみとしての絵画とはちょっと違って、モリゾの作品は私の心の中でそっと日常を支えてくれる存在です。

 

<ココで会える>
ベルト・モリゾ《バルコニーの女と子ども》は東京・京橋のアーティゾン美術館の所蔵品。現在開催中の「STEPS AHEAD: Recent Acquisitions 新収蔵作品展示」で観ることができる(9月5日まで)。本展は、充実のコレクションのなかから未公開の新収蔵作品90点を中心に200点近い名品が楽しめる。
アーティゾン美術館 公式サイト
アーティゾン美術館 公式Twitter

和田彩花
和田彩花1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術に強い関心を寄せる。

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