新連載!【和田彩花のカイエ・ド・あーと】第1回 マネとモリゾとアヤチョ

マネとモリゾとアヤチョ

美術との出会いは、私が高校一年生のとき、2010年の春に開催された三菱一号館美術館の「マネとモダン・パリ」展がきっかけでした。マネの黒い絵の具の世界と人が倒れているだけという、決して美しいわけではなかった主題に魅せられ、美術に強い関心を持っていくようになりました。アイドル活動の傍ら、美術館に通う日々を過ごし、仕事と両立しながらではありましたが、2019年の春まで美術史を学ぶ学生でもありました。

今は、美術にあまり関心のない方と美術館との間を繋げていけたらいいなという思いで発信活動に取り組むほか、自分の表現活動では公への意識をもとに音楽や言葉に関わってもいます。

今回は、そんな美術との関わりを持ってきた私が、コラムを書かせていただけるということですので、やはり、まずはマネの作品からお話をはじめたいなと思っています。

日本で観ることのできるマネの作品と聞いて、すぐに頭に浮かんだのは、5年ほど前にライブの合間に足を運んだひろしま美術館です。ひろしま美術館のマネ作品は、パステルの柔らかい質感で描かれた《灰色の羽根帽子の婦人》と、ベルト・モリゾの肖像《バラ色のくつ(ベルト・モリゾ)》があります。パステルの柔らかい質感とマネ独特の筆致が合わさることの素敵さをここでぜひお話ししたいと思ったのですが、私がマネの作品で最も好きなのは、モリゾを描いた肖像群で、とはいっても、やっぱりあのパステル画は本当に素敵だからここで伝えないでどうする自分……! という葛藤を少し繰り広げたのち、今回は、《バラ色のくつ(ベルト・モリゾ)》を紹介することに決めました。

エドゥアール・マネ《バラ色のくつ(ベルト・モリゾ)》
エドゥアール・マネ《バラ色のくつ(ベルト・モリゾ)》
1872年、油彩・カンヴァス
ひろしま美術館蔵
※画像転載ならびにコピー禁止

まず、先ほど、マネの作品で最も好きなのは、ベルト・モリゾの肖像群とお伝えしたように、モリゾ単独の肖像は、1868年から1874年という6年の間に約10点制作されています。《バラ色のくつ》はそのうちの一点で、1872年に油彩で描かれたものになります。
背景は、わりと素早い筆致で描かれているので、全体的にぼんやりとした印象を受けた方もいらっしゃるのではないでしょうか。とくに、向かって左の椅子周辺の描写は、壁や床の境目が曖昧で、平面性への志向を伺うことができるかもしれません。

そんな背景に比べ、モリゾの黒いドレスは輪郭線がしっかり取られているので、画面に強弱を与えてくれそうです。とはいいつつも、ドレスの首元や袖のあたりなども荒い筆致を残すように描かれているので、ささやかな強弱のつけ方がこの絵の素敵なポイントだと私は思いました。

それから、タイトルにあるとおり、バラ色の靴が特徴的ですね。よく見てみると、モリゾの頰や唇、髪飾りにもバラ色が用いられています。全体の色数は多くはないのですが、明るいバラ色を差し色のように置き、画面に華やかさを添える、マネの感覚が好きです。

そして、モリゾを描いた肖像に共通する彼女の個性といいますか、凛とした佇まいが私は大好きです。西洋の絵画に描かれてきた多くの女性像は、まなざされる存在であることが多く、それは、私自身がアイドルという職業の中でまなざされてきた経験にもところどころ重なる視点でした。20代を過ぎてから、画中のモリゾの姿に自分のありかを重ねながら過ごしていた経験もちょっとした思い出です。

15歳でマネと出会ったときには気づかなかったけれど、年齢や経験、時期によって、作品との向き合い方が変化していったり、自分の視野を見つめ直していったりできる美術との時間が大好きです。

このコラムが、読んでくださるみなさんにとってのお気に入りの美術との時間が生まれるきっかけになったら嬉しいです。次回も、お楽しみに。

 

<ココで会える>
エドゥアール・マネ《バラ色のくつ(ベルト・モリゾ)》(1872年)は、ひろしま美術館(広島県広島市)の所蔵作品。ひろしま美術館では印象派を中心としたフランス近代絵画と、日本洋画や日本画などの日本近代絵画を所蔵していて、コレクションの中から、フランス近代美術など約90点を常設展示している。現在、特別展として『「がまくんとかえるくん」誕生50周年記念 アーノルド・ローベル展』が開催中。5月23日まで。
ひろしま美術館公式サイト

和田彩花
和田彩花1994年8月1日生まれ、群馬県出身。アイドル。2009年4月アイドルグループ「スマイレージ」(後に「アンジュルム」に改名)の初期メンバーに選出。リーダーに就任。2010年5月「夢見る15歳」でメジャーデビューを果たし、同年「第52回日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。2019年6月18日をもって、アンジュルム、およびHello! Projectを卒業。アイドル活動を続ける傍ら、大学院でも学んだ美術に強い関心を寄せる。

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