探訪・箱根③ 箱根ラリック美術館 香水瓶のストーリーにときめく ドラマチック・ラリック展

香水瓶「牧神の接吻」1928年 モリナール社

ドラマチック・ラリック

箱根ラリック美術館

2020年9月12日(土)~2021年3月21(日)

箱根の美術館にはテーマを思い切り絞ってファンを惹きつける施設が多い。アール・ヌーヴォー、アール・デコの両時代に活躍したフランスの芸術家、ルネ・ラリックに焦点をあてるこちらも、その代表的な存在だ。

【ルネ・ラリック】1860―1945 パリで育ち16歳で宝飾職人に弟子入り。カルティエなどの一流宝飾店から依頼されるほどのジュエリー作家になり、1900年のパリ万博でグランプリを受賞。コティの香水瓶制作をきっかけにガラス工芸に転身した後も、オリエント急行や豪華客船ノルマンディー号の室内装飾を手掛けるなど、幅広いジャンルで独創性あふれる作品を生み出した。

同美術館では現在、香水瓶をテーマとする「ドラマチック・ラリック」展を開催している。

万博後、ラリックは香水商フランソワ・コティとの出会いをきっかけに、香水瓶のデザインと製造という新しいジャンルへの挑戦をスタートさせた。それまで香水瓶に独創的なデザインを施すという考えはあまりなかったが、ラリックは目に見えない香りの魅力やイメージを、花々や真夜中に輝く月、高層ビルなどにたとえ、瓶の造形やデザインで表現した。

香水瓶「シクラメン」1909年 コティ社

容器という枠を超えて、繊細な意匠に豊かなストーリーが込められたラリックの香水瓶は瞬く間に人々の心をつかんだ。展示の目玉となっているウォルト社の「香水瓶5連作」は実にしゃれている。

左の青い瓶から順に「ダン・ラ・ニュイ(真夜中に)」(1924年)、「ヴェール・ル・ジュール(夜明け前に)」(1926年)、「サン・アデュー(さよならは言わない)」(1929年)、「ジュ・ルヴィアン(私は戻ってくる)」(1931年)」、「ヴェール・トワ(あたのもとへ)」(1933年)=いずれもウォルト社製

五つの作品名をつなげると、「真夜中に、夜明け前に さよならは言わない。私は戻ってくる、あなたのもとへ。」という愛の歌になる。こうしたドラマに乗って、香水瓶は人々の想いを載せた贈り物として定着していくことになる。

このほか、当時の洗練されたデザインの広告素材なども展示され、時代の空気を伝えていて興味深い。

広告「ヴェール・トワ」1934年 ウォルト社
広告「ダン・ラ・ニュイ」1924年 ウォルト社

常設展示ではラリックの精巧なデザインによる様々な制作物を楽しめる。

ブローチ《シルフィード(風の精)あるいは羽のあるシレーヌ》1897~1899年頃 金、ダイヤモンド、透胎七宝
花器《パンチエーヴル》1926 色ガラス、型吹き、パチネ
シャンデリア《狩り》1913 無色ガラス、プレス、パチネ、金属

敷地内にはラリックが内装を手掛けたオリエント急行の車両(ル・トラン)が設置されており、中で優雅にティータイム(要予約)も楽しめる。

一人の作家の作品だけでも、驚くほど豊かな世界観を楽しむことができる。こうした美術館に立ち寄るのも贅沢な時間の使い方だろう。詳しくは同館ホームページへ。

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(読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)

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