探訪・箱根② 岡田美術館 人気の絵師、年代ごとの変化を楽しむ 若冲展

没後220年 画遊人・若冲 ー光琳・応挙・蕭白とともにー
岡田美術館(神奈川県箱根町小涌谷)
2020年10月4日(日)~2021年3月28日(日)
2013年10月にオープンした比較的新しい私立美術館。近世・近代の日本画と東アジアの陶磁器を中心に常時450点を展示しており、メディアに取り上げられることも多い。現在は伊藤若冲(1716~1800)の作品を紹介する企画展を開催している。

近年、圧倒的な人気の若冲は京都で活躍した絵師。今回は同館が収蔵している7件をすべて展示しており、年代ごとの移り変わりを楽しむことができる。

家業の青物問屋を営みつつ、絵を学んでいた30歳代後半の作品。得意とする鶏の描写で、真に迫った造形に惹かれる。このあと40歳で家督を弟に譲り、本格的に絵の道に専念する。

若冲の生誕300年にあたる2016年に、「83年ぶりの発見」と報道され話題になった一作。代表作「動植綵絵」(宮内庁三の丸尚蔵館蔵)の制作が始まった宝暦7年(1757)頃(当時、数えで42歳)より前に描かれたものと考えられ、40歳前後の作か。技巧を凝らした羽の細密な表現にため息。もともとは広島藩浅野家十二代藩主、浅野長勲(ながこと)の所蔵。

40歳代後半の作とみられる。流れ落ちる水のほとりに梅が咲き、メジロが止まっているさま。梅の花弁には、ごく薄い白にさらに濃淡差をつけて奥行きを表している。蕊(しべ)の黄色は色味の異なる二色を使い分けるなど、ディテールへのこだわりに唸る。
展示作品にはそれぞれ子ども向けの解説が添えられており、家族連れにはうれしい配慮。大人が読んでも「へぇ~」という小ネタが入っている。小林優子主任学芸員のお手製で「大人向けの解説を考えるより、何倍も時間がかかりました」という。

こちらも40歳代後半の作と推定される。ふと立ち止まり、後ろを振り向く瞬間を描写しつつ、時間の流れも感じる。絹地の裏側にも絵具を塗る「裏彩色」という技法を使っており、羽の膨らみや量感を表現している。

斜めに置かれた編み笠の上に、微妙なバランスで立つ鶏。長く伸びた尾羽は一筆のように見えて、淡墨線の上に濃墨線を重ねている。翼は羽と羽の間に白い筋が浮かび上がっており、「筋目描」という若冲得意の技法が使われている。墨絵でも様々な超絶技巧が駆使される。40歳代後半の作と推定。

輝く月を背景に、舌を見せて鳴きながら落ちていく鳥。中国南部や東南アジアが原産で、日本にも生息するムクドリ科の鳥で、ハッカチョウという。背中に広がる白い文様が縁起のよい「八」の字に見えることから、「叭々鳥(ははちょう)」ともいい、中国では大変に好まれた。白い紙の素地を塗り残して月を表現しており、ごく細い輪郭線の周囲に淡墨の筆致を水平に連ねるという、手間をかけた手法。急降下する鳥とはどういうメッセージが込められた意匠なのか、想像は尽きない。

最晩年の大作。「米斗翁八十一歳画」の署名から、「米斗翁」と称した若冲の数え八十一歳の作と分かる。藤原公任が秀歌を集めた『三十六人撰』の歌人を描くもので、鎌倉時代以降、数々の作品が残されている題材。歌人の作歌と絵柄の突合せなどで柿本人麻呂、大伴家持、紀貫之、在原業平、伊勢、小野小町らが想定できる。ユーモアあふれ、筆勢を生かしたおおらかな表現は、展覧会タイトルの「画遊人」そのもの。その中でも衣装の文様や器物の細部まで描き込んでおり、老いても衰えることのない技巧を味わえる。


今展は光琳や応挙、蕭白らの作品と比較しながら楽しむ趣向。広々とした展示室で、じっくりと作品と向き合うのは楽しい。詳しくは同館ホームページへ。
探訪・箱根③へ続く。
(読売新聞東京本社事業局美術展ナビ編集班 岡部匡志)