探訪・金沢④ 前田家の奥方御殿「成巽閣」 「細川家の能の世界」能楽美術館  美味しいものも

謁見の間

成巽閣 現存唯一の奥方御殿 「前田家伝来 冬の衣裳と調度」展開催中

いしかわ生活工芸ミュージアムの隣には、前田家の奥方御殿だった成巽閣(せいそんかく)がある。文久3(1863)年に前田家13代・齊泰(なりやす)が母にあたる眞龍院ために建てた。武家書院造と数寄屋風書院造を一つの建物の中に組み入れており、江戸末期の武家造りの遺構としては類例がない。国内で唯一現存する大名正室の御殿で、江戸時代の大名の奥方たちの実際の暮らしぶりが想像できる貴重な遺構だ。明治維新で前田家が東京に移って主がいなくなった後は、博物館や明治、大正天皇の宿泊所になるなどの変遷を経て、戦後に公益財団法人となった。

松の間を障子の外側から見る。腰板にはオランダ渡来のガラス絵がはめ込まれている。松の間は休息の間として使われた。

建物は2階建てで、1階には謁見の間や鮎の廊下、亀の間~万年青(おもと)の縁、蝶の間~つくしの間、松の間など、小動物や植物の名の付いた部屋や廊下などが続く。これは部屋や廊下にある障子の腰板に描かれた絵が由来になっている。部屋では座って過ごすのが基本で、視線は低い。その低い視線の先に見せたいもがある。

 

2階 群青の間

2階群青の間・書見の間の天井にはフランスから輸入したウルトラマリンブルーが使われるという、非常に珍しい造りになっている。

朱がほどこされた夜着(左)と敷布団(右)

現在、成巽閣では奥方や姫君たちの冬の衣裳を展示した、「前田家伝来 冬の衣裳と調度展」が開かれている。寒さの厳しい金沢の冬の夜を過ごすための夜着は、邪気を退けるという豪華な朱色と吉祥の文様が散りばめられている。姫君たちの小袖の絞りや刺繍も秀逸で愛らしい。

姫君たちの着た小袖

 

「前田家伝来 冬の衣裳と調度展」

2020年123日~202121

成巽閣(金沢市兼六町)

詳しくは成巽閣ホームページへ

 

金沢能楽美術館 「翁-大名細川家の能の世界―」展開催中

21世紀美術館に隣接して、公立では全国唯一の能楽専門美術館である金沢能楽美術館がある。金沢の能楽は前田家が武家の式楽として育成、庶民にも奨励したことから、「加賀宝生」として独自の発展を遂げた。金沢城内には武具・甲冑の修理や、藩主の身の回りの調度品などを作る御細工所もあり、そこで働く職人が能の役を兼ねる制度があって、庶民階級に広めるのに一役買ったという。能楽の盛んな金沢は「空から謡が降ってくる」とまで言われた。

明治維新で武士階級が消えるとともに能楽も一時衰えるが、明治時代の能楽師・佐野吉之助が復興に尽力し現在の隆盛を迎えることになる。金沢能楽美術館は佐野の功績を引き継ぎ「加賀宝生」を後世に伝えるため、能面や能装束などを収集展示する施設として2006年に開館した。

1階に置かれた金澤能楽堂の模型。奥には能面の制作工程や装束が並ぶ

 

1階には能舞台と同じ大きさのスペースがあり、床にはそれぞれの演者の位置も示されていて、実際の空間を体感できる。中央には金沢能楽堂を再現した模型が置かれ、普段は見られない舞台の構造や舞台裏などが分かる。また、能面や装束を着装する体験コーナーもあるが、現在はコロナウイルス対策のため中止している。同館では状況が落ち着いたらぜひ再開したいとしている。

(左) 重要美術品「翁(白色尉)」 「日光作/満昆(花押)」金泥極  室町時代(15世紀)、 永青文庫蔵、前期展示
(右)「三番叟(黒色尉)」 江戸時代(17世紀)・江沼神社蔵(金沢能楽美術館寄託)、後期展示

翁を中心に細川家伝来の名品展示

同館では20201212日から特別展「翁-大名細川家の能の世界―」を開いている。江戸時代に肥後熊本を納めた細川家は、初代の細川幽斎(藤孝)から歴代藩主が能に親しみ、自らも舞台に上がった。そのため能面や能装束、楽器、小道具など約900点のコレクションが伝来している。

(左) 重要美術品 「般若」 伝 般若坊作 室町時代(16世紀)、永青文庫蔵、後期展示
(右)「雷電」 出目元休満総作 江戸時代(18世紀)、個人蔵(金沢能楽美術館寄託)、後期展示

 

今回はその中で「翁」を中心とした展示になる。演目「翁」は能の原点とも言われ、翁面をかけることで演者は神になり、その舞により世の安泰を祈願する特別なもの。江戸時代の正式な上演スタイルである「翁付五番立」に基づいて、「翁」を中心に神・男・女・狂・鬼の五つのジャンルの名品を展示する。

「翁-談山能2019-」Hiroaki Ishii

 

特別展「翁-大名細川家の能の世界―」

2020年1212日~2021年1月31

前期 2020年12月12日~2021年1月11日

後期 2021年1月14日~2021年1月31日

会期中展示替えあり

金沢能楽美術館(金沢市広坂)

詳しくは同美術館ホームページ

 

 

 

他にも見所が

詳しく紹介するスペースは無いが、国立工芸館の隣には旧陸軍の兵器庫だった赤レンガの建物、県立歴史博物館がある。この建物は国の重要文化財に指定されている。旧石器時代から現代までの石川県の歴史資料が展示され、実物の資料に触れる体験コーナーもある。国立工芸館と県立美術館の間の小さな谷に沿って道を下ると、金沢市立中村記念美術館に出る。実業家で茶人の中村栄俊氏が創立した中村記念館を基にしたもので、茶道具を中心に近世絵画や古九谷、加賀蒔絵などの名品を収蔵している。さらに進むとあるのが鈴木大拙館。仏教哲学者だった大拙の活動を知るとともに、静かな思惟の時を過ごすのも楽しいかも知れない。

忘れはならないのが金沢城跡。城内に残る各時代の技法を伝える石垣や櫓、門など見所はたくさんある。

 

国立工芸館(手前右)の隣には赤レンガ造りの県立歴史博物館がある
金沢城三の丸広場から(左から)橋爪門続櫓・五十間長屋・菱櫓を見る
2020年7月に復元された鼠多門

美味しいもの

金沢の人たちのお菓子好きは有名なところ。少し前の統計になるが、都道府県別のお菓子消費量で石川県が全国1位という実績もある。金沢で名品を見た後に、おいしい和菓子はどうだろう。市内で聞いた銘柄を順不同に並べてみる。中田屋「きんつば」、すゞめ(旧名・六星)「豆大福」、かわに「農家屋ポテト」、圓八「あんころ餅」、甘納豆かわむら「大浜だいず」、松葉屋「月よみ山路」、俵屋「じろあめ」、森八「宝達」などなど。数え上げればきりが無いようだ。JR金沢駅に専門店が集まっているので、そこへ行けばお好みの和菓子が見つかるはずだ。

探訪・金沢 終わり

(読売新聞事業局美術展ナビ編集班・秋山公哉)

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