【夢眠ナビ】第10回 いま会いたいカボチャ 草間彌生

いま会いたいカボチャ 草間彌生

旅に出たい、旅に出られない。
そんな繰り返しになんだか疲れてしまい、ぼんやりしながら「あーーー……草間彌生のカボチャに会いたいな」と思った。
おお、そんなことを思っていたとは……。これは心からの声だろう。
これまでは芸術作品に会いに行くことが簡単だったのに、いや簡単だからこそ「また今度でいいか」と後回しにしていた。
大切なものは失って初めて気付くというけれど、「生の作品に触れたい」という欲求がここまでのものとは。

草間彌生。

日本の重要なアーティストとして知る人が多く、美術に興味がない人でも彼女自身がアイコニックなために「赤いおかっぱの水玉の芸術家」と認識しているだろう。
彼女の芸術家としてのスタートは穏やかではなく、表現せざるをえなかった人生とも言える。
幼少期から強迫神経症により視界が水玉で覆われる幻覚や、花や動物が人間の言葉で話しかけてくるような幻聴に襲われるようになり、その恐怖から逃れるため描きとめていたのである。
その熱中ぶりは凄まじく、親に反対されても絵を描くことをやめず、好きなアーティストとの手紙のやり取りがきっかけでこれまでの作品を全て焼き捨てて渡米。前衛的な表現でニューヨークのアートシーンに衝撃を与えた。

彼女はよく知られている立体作品や絵画だけでなく、《クサマ・ハプニング》という前衛的パフォーマンスの人でもあった。
“ハプニングの女王”とも呼ばれ、一貫して反戦や世界平和を訴えている。
私が初めて彼女の作品を観に行ったときに、自分へのお土産で手に取ったポストカードは《ハプニング「ホースプレイ」》。草間本人と馬に水玉模様が施されているハプニングの写真だった。
この水玉は前述した幻覚の影響もあるが、《クサマ・ハプニング》の象徴であり、「人体に水玉模様をえがくことによって、その人は自己を消滅し、自然の宇宙にかえる」(自伝「無限の網」より)といった意味がある。

そして、今会いたいカボチャ。
直島のヌケのよい海のロケーションに、ドカンと佇む水玉模様に包まれた黄色の《南瓜》と《赤かぼちゃ》だ。

草間彌生《南瓜》
草間彌生"南瓜"  写真:安斎重男
Yayoi Kusama"Pumpkin"  Photo: Shigeo Anzai

いろんな雑誌やウェブサイトで特集されているのを、なんだか“映え”目的にされているように感じて、「ふーん…」なんつってひねくれて見ていたのに、今、猛烈に恋しくなっている。

どっしりした、愛嬌のあるカボチャ。
それを形作り、そこに注ぎ込まれた彼女の愛。
きっと私は今、色んなことが足りなくてフガフガのスポンジのようになっている。
そのからっぽの水玉ひとつひとつに草間彌生の放ち続ける全力のエネルギーを満たしたいのだ。

自分が動けるうちに、愛を受け止める気力が残っているうちに、絶対に会いたい作品とは対面しておこう。
あらゆる方面でOKサインが出たら、彼女に、彼女のカボチャに、大きな愛と気力を分けてもらいに行くと決めた。

《次回の更新は2021年1月15日になります》

 

<夢眠メモ>
「ベネッセアートサイト直島」は、直島、豊島、犬島を舞台に、株式会社ベネッセホールディングスと公益財団法人 福武財団が展開しているアート活動。直島に到着すると出迎えてくれる草間彌生の作品は、直島のアイコンとしても広く知られ、現代アートファンのみならず多くのアートファンに愛されている。
ベネッセアートサイト直島公式サイト


夢眠ねむ(ユメミ ネム)
書店店主/キャラクタープロデューサー
多摩美術大学卒業
10年間続けたアイドル活動を引退後、本好きのためではなくこれからの本好きを育てる「夢眠書店」を下北沢で開業。書店経営と並行してミントグリーンのたぬき「たぬきゅん」と、その仲間たちのプロデュースを手掛けている。映像監督、作詞、パレード脚本、コラム執筆、キャラクターデザインなど活動は多岐に渡る。

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