【夢眠ナビ】第9回 女心を掴む、広告としてのミュシャ

女心を掴む、広告としてのミュシャ

日本人にとても人気がある画家の一人、アルフォンス・ミュシャ。
私も幼い頃からときめいている。
このきゅんとする感じ、買おうと決めている限定品の贅沢なアイシャドウパレットをうっとり眺めるのに似ているなあと思っていたら、なるほど、ミュシャはポスターを多く描いていた、いわゆる「広告」の人でもあった。
きらきらした憧れの世界を、乙女の夢みたいなものを、彼の作品に感じているのだろう。

ミュシャといえばアール・ヌーヴォー、アール・ヌーヴォーといえばミュシャというほど切っては切れぬ関係にあるが、そもそもアール・ヌーヴォーってなあに? という方に、パパッと説明する。
アール・ヌーヴォーとは「有機的曲線」を特色として、「花や虫といった自然界の美をモチーフ」に使い、「従来の様式に囚われない装飾性」を表現した、19世紀末から20世紀初頭にかけての「新しい芸術」である。
くねくねした鉄、それに流し込まれるカラフルなガラスなど、当時の新素材がたくさん使われている。
(実際、身近で見る機会があるとすれば、ディズニー・シーにある大きな船『S.S.コロンビア号』の船内装飾が、アール・ヌーヴォー調)

彼の作品も、画面の中がアーチで縁取られることが多い。
ウェーブした髪、必ず中心に鎮座する美しい婦人像のカーヴィーな身体など、たくさんの曲線を見つけることができる。

アルフォンス・ミュシャ《ハムレット》
アルフォンス・ミュシャ《ハムレット》 1899年
リトグラフ、紙
堺 アルフォンス・ミュシャ館(堺市)蔵

私が好きな少女漫画本のイラスト集にも、明らかにミュシャの影響を受けているものが多数ある。
もっと遡ると、与謝野晶子の歌集『みだれ髪』の表紙画は藤島武二だが、これもミュシャの影響が極めて強いと思う。
女性の新しい表現の代表である詩集にふさわしいデザインだ。

明治時代の日本人が、それまで見たことのなかった新しい芸術に衝撃を受けたように、現代に生きる私たちにも響いて……るんだと思っていたが、ちょっと待てよ。
ミュシャはかなりジャポニスムの工芸品に影響を受けていたらしい。
異国のスープを「美味しい美味しい」と飲んでいたら、隠し味に味噌が入っていたような、母国のエッセンスもこのときめきには含まれているのかも。

アルフォンス・ミュシャ《サラ・ベルナール:ルフェーヴル=ユティル》
アルフォンス・ミュシャ
《サラ・ベルナール:ルフェーヴル=ユティル》
1904年 リトグラフ、紙
堺 アルフォンス・ミュシャ館(堺市)蔵

女の子カルチャーの中心に、実はミュシャはずっといた。
女心をぎゅうと掴まれるような、憧れていた時代の「広告」の原点がミュシャにはある。

 

<夢眠メモ>
約500点にのぼるアルフォンス・ミュシャの作品を所蔵する堺 アルフォンス・ミュシャ館。初期から晩年に至るまでのミュシャのあらゆる制作活動を知ることができる貴重なミュージアム。現在は「ミュシャとアメリカ」展が開催中。本展は大作《スラヴ叙事詩》を成し遂げるために欠かせなかったミュシャとアメリカの関係をテーマとして、代表作のほかミュシャとアメリカに関連する作品を紹介し、ミュシャにとっての渡米の意義、そして彼の作品や人生に与えた影響を探る。2021年3月7日まで。
堺 アルフォンス・ミュシャ館公式サイト


夢眠ねむ(ユメミ ネム)
書店店主/キャラクタープロデューサー
多摩美術大学卒業
10年間続けたアイドル活動を引退後、本好きのためではなくこれからの本好きを育てる「夢眠書店」を下北沢で開業。書店経営と並行してミントグリーンのたぬき「たぬきゅん」と、その仲間たちのプロデュースを手掛けている。映像監督、作詞、パレード脚本、コラム執筆、キャラクターデザインなど活動は多岐に渡る。

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