【夢眠ナビ】第8回 変人に好かれる奇人 ジュゼッペ・アルチンボルド

変人に好かれる奇人 ジュゼッペ・アルチンボルド

ひと目見れば魅了されてしまう彼の作品は、ぎっしりと花や野菜、生き物を詰め込んだ絵で人物像に見せている「寄せ絵」だ。
彼の絵は“天才のやりたい放題”という感じがして、気持ちがいい。
やりたい放題なのに品がある。
宮廷画家に対して「絵が上手い」なんて感想は失礼かもしれないが、ただの閃きだけでは、こんな作品には仕上がらないはずだ。

まず根底にある発想力、モチーフひとつひとつを描ききる観察力と描写力、それらをまとめて人物に見せるための構成力……全てが桁違いである。
彼の作品は“人物画でありながら静物画”であり、一説ではイタリアで初めての静物画と言われているそうだ。

アルチンボルドは30代まで伝統的な宗教画を描いていたが、36歳でスカウトされ神聖ローマ皇帝の宮廷芸術家となる。
画家でありながら衣装デザイナー、建築士、古美術の買い付け、楽しい催しの企画までやっていたようだ。
なんと、ハープシコード(チェンバロ)のような楽器を発明したのもアルチンボルド! 肩書きがいくつあっても足りないほどの才能……もはや奇才を通り越して奇人である。

ジュゼッペ・アルチンボルド《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》
ジュゼッペ・アルチンボルド《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》
1590年頃 スコークロステル城(スウェーデン)
写真提供 ユニフォトプレス

神聖ローマ皇帝のマクシミリアン2世は彼の《四大元素》《四季》の連作を気に入り、お祭りで王族のメンバーに絵画の仮装をさせたそうだ。
めちゃめちゃ可愛いな、マックス……(親しみを込めて勝手にあだ名で呼びました、謝罪いたします)。

《ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像》は、ギリシャ神話の果樹と果物を司る神が、果物と花で表現されている。
ルドルフ2世は稀代のコレクターだったという。政治そっちのけで収集や錬金術に陶酔していたらしく、アルチンボルドもそれを汲み、彼のコレクションを絵画に収めたため、当時のヨーロッパでは珍しい野菜や果実、動物が描かれていたりもする。
彼を雇っていた皇帝たちは、変わった絵を描くアルチンボルドを奇人で終わらせず、しっかりと評価して、爵位を与えている。
彼らも珍品を集めるのが趣味の変わり者だから、お互いが共通言語を持った良き理解者だったのかもかもしれない。

彼の没後、ルドンやダリ、デュシャン(やっぱり全員変人)によって再評価され、「シュールレアリスムの祖父」と言われたアルチンボルド。
う~ん、やっぱり、奇人変人が芸術をグンと進化させていく……。
彼らがのびのびと描いた作品が評価され、権力者に愛され、爵位をもらえる……。16世紀って、やっぱり面白い時代だと思うのだ。

 

<夢眠メモ>
アルチンボルドの作品は、日本では大型展覧会がないとなかなかお目にかかれない。2021年度にオープン予定の大阪中之島美術館では、寄託作品として《ソムリエ(ウェイター)》を所蔵している。アルチンボルドらしいワインの樽が擬人化したユニークな作品。お披露目される機会を期待。
アートリップミュージアム公式サイト


夢眠ねむ(ユメミ ネム)
書店店主/キャラクタープロデューサー
多摩美術大学卒業
10年間続けたアイドル活動を引退後、本好きのためではなくこれからの本好きを育てる「夢眠書店」を下北沢で開業。書店経営と並行してミントグリーンのたぬき「たぬきゅん」と、その仲間たちのプロデュースを手掛けている。映像監督、作詞、パレード脚本、コラム執筆、キャラクターデザインなど活動は多岐に渡る。

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