【夢眠ナビ】第7回 金色の雲に隠れて

金色の雲に隠れて

安土桃山時代の作品はとにかく金ピカで豪華絢爛である。
以前紹介した江戸時代の浮世絵が庶民の芸術だとしたら、安土桃山時代の屏風絵はお金持ちのための芸術だ。
浮世絵を観ていると「この時代に庶民として暮らして、だんごでも頬張りたいなぁ」となるが、桃山の作品を観ていると「こんな立派な屏風どこに飾るの……」「こんな素敵な鏡を贈られるお嬢様に生まれてみたい……」と別の種類の憧れを抱くことになる。

狩野派。
室町時代から明治維新を迎えるまでの約400年にわたり、日本の絵画界を引っ張ってきた一族だ。
足利将軍家や織田信長、豊臣秀吉、徳川幕府など、とてつもないレベルの権力者の後ろ盾があった派閥である。
狩野永徳は、その中でも狩野派の御曹司として生まれ、すぐに才能が認められて英才教育を受けて育ったエリート中のエリート。
国宝である《洛中洛外図屛風(上杉家本) 》は、京都の町を上空から描いており、描かれている人はなんと約2,500人!
織田信長が上杉謙信に贈ったといわれるこの大作を、彼は若干23歳で描いたそうな……。凄すぎて、こわい。
比べる必要など一切ないのに、自分が同じ歳の頃は何してたっけ……としばし考え込んでしまった。

狩野永徳筆《洛中洛外図屛風 上杉家本》
国宝 洛中洛外図屛風(上杉家本) (右隻) 狩野永徳筆
室町時代・永禄8年(1565) 山形・米沢市上杉博物館蔵
東京国立博物館「桃山─天下人の100年」展 前期展示(展示終了)

洛中洛外図をはじめ、色んな屛風絵を観て回っていると、ひとつ気づくことがある。
ほとんど全ての作品で、金色の雲が画面を覆っている……!
この、大和絵に頻繁に登場する金箔をふんだんに使って描かれた雲は「すやり霞」とも呼ばれ、屛風絵の中で重要な役割を果たしている。

洛中洛外図は京都全体を描いているのだが、そのまま描くと遠い山と山を表現するのにもの凄い大きさの紙が必要になってくる。
主要な建物以外の民家も一軒一軒描かなくてはいけなくなる。それらをごまかすため、端折るために、この雲が活躍するのである。
「すやり霞」は絵巻物にも使われており、場面の転換や時間の経過を表現するために用いられていた。
時空を歪ませてワープしたり、見えていない雲の下もしっかり描かれているように感じてしまう、めちゃくちゃ便利な霞(雲)なのだ。

大和絵ではお約束のこの雲、画面がほとんど雲のものもあったり、雲少なめでびっくりするほど描き込む人がいたりと特徴が出やすい。
私がもし屛風絵師で締め切りに追われていたら、全面を金雲にして……ううむ、単なるサボり目的の金箔代は高くついちゃうな。

狩野永徳筆《唐獅子図屛風》
唐獅子図屛風 狩野永徳筆
安土桃山時代・16世紀 東京・宮内庁三の丸尚蔵館蔵
東京国立博物館「桃山─天下人の100年」展 後期展示

 

<夢眠メモ>
東京国立博物館で開催中の特別展「桃山─天下人の100年」は、日本美術史上もっとも豪壮で華麗な「桃山美術」を中心に、室町時代末から江戸時代初期にかけて移り変わる日本人の美意識を数々の名品でたどる展覧会。現在は後期展示中。本展は事前予約制となっており、11月14日が最終チケット販売日となっている。11月29日まで。
特別展「桃山─天下人の100年」公式サイト


夢眠ねむ(ユメミ ネム)
書店店主/キャラクタープロデューサー
多摩美術大学卒業
10年間続けたアイドル活動を引退後、本好きのためではなくこれからの本好きを育てる「夢眠書店」を下北沢で開業。書店経営と並行してミントグリーンのたぬき「たぬきゅん」と、その仲間たちのプロデュースを手掛けている。映像監督、作詞、パレード脚本、コラム執筆、キャラクターデザインなど活動は多岐に渡る。

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