【夢眠ナビ】第2回 シャガールが着たい

シャガールが着たい

それまでも展覧会でシャガールを見ていたが、一番印象に残っているのが青森県立美術館の開館記念展だ。
なんと2006年、14年も前!
大学の友人と青春18きっぷを使って鈍行で青森に向かい、人生初の野宿をし(良い子は真似しないでね)、貧乏旅行のわりには良い駅弁を食べた。
やっと到着した県立美術館で、できたてほやほやの《あおもり犬》を見上げたときの感動は忘れられない。

青森県立美術館でやっていたのは「シャガール『アレコ』とアメリカ亡命時代」展。
ユダヤ人のシャガールは、ナチス・ドイツの迫害から逃れるためアメリカへ亡命しており、その時代に手掛けていた作品群が展示されていた。
そして、それは絵画だけに留まらない。
表題の『アレコ』とは何かというと、彼が1942年に手がけたバレエ公演である。
簡単なあらすじは、元貴族の男がジプシーと恋に落ち、ジプシーの集落で暮らしていくのだが、妻が若いジプシーと浮気し嫉妬で狂って両人を刺し殺し、集落からも追放される〜完〜という、ゴリゴリのバッドエンド。
そこで使用された衣装や舞台装置がずらりと展示されていた。

マルク・シャガール《バレエ『アレコ』の衣装》
マルク・シャガール
バレエ『アレコ』の衣装(34点) 1942年 個人蔵
青森県立美術館「シャガール 『アレコ』とアメリカ亡命時代」展示風景
© DAICI ANO
© ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2020, Chagall® E3887

衣装はなんと驚くべきことに、シャガールが1点1点、直接ペイントして仕上げている。
華やかであるが奇抜とは違う。とくに主人公の妻・ゼンフィラというジプシーの衣装が自由奔放で移り気な性格をみごとに表現しており、くるくる回るとふわりと広がりそうなシルエットがとても可愛い。
農民衣装のたわわに実った果実のような表現や、貴婦人衣装のモノトーン・ボタニカル柄はそのままテキスタイル化して現代のワンピースに仕立ててもとびきり素敵だろう。
人間以外の登場人物《魚》や《コウモリ》は可愛げたっぷりで、《雌牛》《雄鶏》などシャガールらしいモチーフも見られる。
あれもこれも着てみたいという気持ちが膨らむ。

背景画のサイズはなんと、およそ幅15メートル×高さ9メートル!
全部で4幕分あるので、かなりボリュームがある。連作の絵画としても魅力的だ。
この衣装を着て、この背景画の前に立ったら、シャガールの世界にそのまま入り込めるな……贅沢な妄想ができる時間だった。

 

<夢眠メモ>
青森県立美術館では、シャガール「アレコ」全4作品を2021年3月頃(予定)まで常設展示中。コレクションである第1幕、第2幕、第4幕に加え、フィラデルフィア美術館所蔵の第3幕の全4作品から成るバレエ「アレコ」の舞台背景画が揃う貴重な機会となる。あらためてシャガールの舞台美術作品の魅力を堪能できる。
青森県立美術館公式サイト


夢眠ねむ(ユメミ ネム)
書店店主/キャラクタープロデューサー
多摩美術大学卒業
10年間続けたアイドル活動を引退後、本好きのためではなくこれからの本好きを育てる「夢眠書店」を下北沢で開業。書店経営と並行してミントグリーンのたぬき「たぬきゅん」と、その仲間たちのプロデュースを手掛けている。映像監督、作詞、パレード脚本、コラム執筆、キャラクターデザインなど活動は多岐に渡る。

公式Twitter
公式note

直前の記事

イギリスが誇る名画コレクション エッセイスト・岸本葉子 × 「ロンドン・ナショナル・ギャラリー展」 【スペシャリスト 鑑賞の流儀】

【スペシャリスト 鑑賞の流儀】は、さまざまな分野の第一線で活躍するスペシャリストが話題の美術展を訪れ、一味違った切り口で美術の魅力を語ります。 今回はエッセイストの岸本葉子さんに、国立西洋美術館(東京・上野公園)で開催中

続きを読む
新着情報一覧へ戻る