星座からのメッセージ バスキュール 朴正義【スペイン人の目、驚きの日本】第12回

Basculeにて 朴正義さん(右)カロリーナ(左)2020年 © Carolina Ceca

スペインに生まれ、同国内のサラマンカ大学で美術史を専攻し、美術史研究者、芸術家として日本で活動するカロリーナ・セカさん。日本人が気づかない視点で、日本の美術、文学、建築などで感じたことを語るコラム「スペイン人の目、驚きの日本」をお届けしています。

 

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私たちを結びつけるもの

太古の昔から人類は宇宙の美しさに魅了されてきました。星座の方角は私たちの祖先を導き、天空は生命にかかわる気候情報を与えてくれました。芸術家にとっては尽きることのないインスピレーションの源です。

米国の天文学者・文学者カール・セーガン(Carl Edward Sagan)はSF小説「コンタクト」(1985年)の中で、天文学の黄金時代なのに人々は星をほとんどの見ていないと嘆いています。

そういえば、最近スマホばかり見つめて下を向いて生活していませんか? 雄大な天空を見上げて想像の翼を広げてみましょう。

古代から今日にいたるまで、天文学と芸術の間には密接な関係があり、今回はその繋がりがテーマです。

 

『塵なれば塵に帰るべきなり』インスタレーション/灰 カロリーナ・セカ © Carolina Ceca

 

原始美術と天文学の関係を研究しているマーティン・B.・スウェットマン(Martin B. Sweatman)とアリステア・クームス(Alistair Coombs)の科学記事は興味深いものです。旧石器時代に、至る所で作成された美術作品を解読しています。動物と人物が星座に擬えて表現されているのです。

天文学の専門家の解釈に従って図の点を結んでいくと「夏の大三角」つまりベガ(織姫星)、アルタイル(彦星)、デネブ(はくちょう座)、射手座と獅子座の星座が表示されます。

古代の人たちは単純な狩猟シーンや落書きを描いていただけではなく、人類と宇宙との関係について非常に具体的な情報を残していた可能性があります。

人間は星を神として崇め、多くの美術作品に表現してきました。

さまざまな時代、文明の芸術家たちが天空観察と感覚への愛を表現しています。あなたはゴッホの『星月夜』やフェルメールの『天文学者』を思い出すかもしれませんね。

スペイン絵画黄金時代17世紀を代表する巨匠ベラスケス(Diego Rodríguez de Silva y Velázquez)の『ラス・メニーナス』に夢中になっていたエンジニアが作品の中に魅力的なメッセージを見つけました。

※エンジニアはアンヘル・デル・カンポ・イ・フランセス(Ángel del Campo y Francés 1914-2009年)。

 

『ラス・メニーナス』(Las Meninas) ディエゴ・ベラスケス作 1656年 © Madrid, Museo Nacional del Prado

 

元々この絵は「家族」と呼ばれていました。この作品を見ると、左側に作家本人、真ん中にマルガリータ王女とその脇にメニーナス(女官たち)そして背景には国王夫妻が描かれています。登場人物は大家族で毎日一緒に宮殿で暮らしていた人々だとわかります。

天体観察が好きな研究者が、ある日絵画の登場人物たちの頭を線で結んでみると、星座のかんむり座と酷似していることに気付きました。マルガリータ王女の額が最も明るい輝いているアルファ星です。

この解釈は非常に興味深いものです。ベラスケスが活躍していた17世紀にこの星座は偶然にも小さな王女マルガリータの王冠(Margarita Coronae)と呼ばれていたからです。

1660年にベラスケスが亡くなり、その遺品の中から天文学に関する本や望遠鏡のコレクションがたくさん見つかっています。

芸術家が制作した多くの芸術作品やその歴史を熟考してみると、それまで全く無縁な存在だと思われていた多くのものが意外な共通点で結び付いていることに気付かされます。

 

希望

七夕が近づいてきました。日本では思い思いの願いを込めたカラフルな短冊が笹の葉に揺れる楽しい風物詩がみられます。あなたはもう願い事を書きましたか?

伝統的な七夕と現代の七夕。2017年に日本テレビとバスキュール社が行った「タナバタリウム」という鮮烈な印象のプロジェクトを思い出します。

朴さん Bascule社にて 撮影:カロリーナ・セカ 2020年

 

「タナバタリウム」2017年(Tanabatarium 2017)は音楽とデジタルコンテンツを駆使したインタラクティブなインスタレーションでした。家族、カップルや友だちがスマートフォンに思い思いの願い事を書き、それぞれの願い事がイベント会場の鏡張り空間の中でデジタル流れ星となって映し出されていく、繋がりを感じるプロジェクトでした。

 

Tanabatarium © Bascule Inc.
左画面:願い事を書くための入力画面。
右画面:願い事を表示する短冊(デジタルコンテンツ)。この短冊が大きなイベント空間に流れ星となって飛んで行きました。

 

デジタルコンテンツとネットワーク技術を使って、高い創造性とインタラクティブなインスタレーションをプロデュースするバスキュール社代表の朴さんから最新の「きぼう」コラボ・プロジェクトの話を聞きました。

 

朴さんは東京の下町で生まれ育ちました。

子ども時代と思春期は楽しい思い出がいっぱいで、何時間もゲームセンターでビデオゲームに没頭し、世界のミュージックビデオや漫画に夢中になっていたそうです。

現在、彼が情熱を傾けているのはコミュニケーションとインタラクティブな仕組みの研究開発です。もし地球以外に知的生命体がいるならば是非会って「地球人類の科学進歩のあり様は間違えていないか?」と訊いてみたいそうです。

バスキュール社のプロジェクトはコンセプトが考え抜かれていて、美学と感情、インタラクティブな仕組みなど、まさに現代アートのインスタレーションのアプローチに極めて似ています。朴さんが自分をアーティストと考えていないことやアカデミックな美術教育の経験がないことを知り、とても不思議に感じました。しかしながらアート専門書や美術館サイトに彼のことが紹介されていても私はまったく驚きません。

「タナバタリウム」(2017)が芸術作品であるか否かは大した問題ではないのです。少なくとも私はプロジェクトの記録ビデオを見た時に人々の繋がりとそれぞれの前向きな願いを感じる取ることができて、胸がキュッとなって目頭が熱くなりました。

 

「タナバタリウム」(2017)から3年が経過し、現在朴さんは新たな革新的な仕事「きぼう」プロジェクトに取り組んでいます。

Kibo © Bascule Inc.
双方向ライブ配信のイメージ (Interactive Live Streaming System)

 

きぼう」(KIBO宇宙放送局)は宇宙航空研究開発機構 (JAXA)、バスキュール社とスカパーJSATが共創し、人と人が繋がる生放送を行うためのスタジオを作るプロジェクトです。意図するのは年齢、社会的地位、国籍、性別などを問わず、人類すべてが平等であるというメッセージです。

国際宇宙ステーション(ISS)が地球を一周する間、インターネットに接続している人なら誰でもリアルタイムに対話ができます。

 

朴さんから「きぼう」プロジェクトの説明を聞きながら、芸術家たちが宇宙からライブで作品を発表できる宇宙インスタレーションを夢想し、芸術がもつ普遍的なコミュニケーションの限りない力を私の短冊に書こうと思いました。

Kibo © Bascule Inc.
誰もが「宇宙船地球号」の乗務員。WE ARE ALL CREW.

 

星が描かれた原始の壁画が発見されたことから着想して、プロジェクトのキャラクターに宇宙服を着た土偶を作成しましたと朴さんが好奇心いっぱいの子どものように楽しそうに語ってくれました。

もし私たちの旧石器時代のアーティストや天空に煌めく星を見て謎めいた絵を描いたベラスケスが、今日携帯電話から願いの短冊を書くことができるとしたら、どんな願いを送るのでしょうか? おそらく物欲などではなくて、将来の子孫のための祈りではないしょうか。

 


『スペイン人の目、驚きの日本』のコラムシリーズは今回が最終回です。
読者の皆さま、取材にご協力いただいた皆さまのお陰で連載ができました。
1年間お読みいただきまして、本当にありがとうございました。
今後も私はアーティストとして美術史家として日本で活動しますので、応援いただければ嬉しいです。
よろしくお願いします。

カロリーナ・セカ

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