リニューアルした「永遠の穴場」 【きよみのつぶやき】第18回(板橋区立美術館リニューアルオープン)

ベテランアート記者・高野清見が、美術にまつわることをさまざまな切り口でつぶやくコラムです。

開館40周年・リニューアルオープン記念

2019 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展

会期:2019年6月29日(土)~8月12日(月・祝)

リニューアルした板橋区立美術館。2階にガラスの仕切りを設け、ロビーだった空間も展示室にした

「不便でゴメン」

板橋区立美術館(東京都板橋区赤塚)が6月29日、大規模改修工事を終えて約1年ぶりにリニューアルオープンした。
1979年5月、東京23区で初の区立美術館として開館した同館は、都営三田線の終点「西高島平駅」から徒歩13分の区立公園にある。
公式サイトに道順として「歩道橋を渡って 高速ぞいの道を歩き トンネルが見えたら右折、溜池公園へ」とある通り、駅を出ていきなり歩道橋を登らなければならない。住宅街を抜けて公園の緑に包まれた美術館の大屋根が見えると、「はるばると来つるものかな」という気分になる。

駅から歩いていくと、赤塚溜池公園の緑に包まれた美術館が現れる

 

近年、新しく建てられる美術館は駅前や中心街のように「人が集まる場所」「人が集まってほしい場所」が選ばれる例が増えている。
城下町の新たな交流点として多くの人を集めることに成功した金沢21世紀美術館(2004年)以来、“街なか志向”はさらに顕著になった。JR静岡駅前の静岡市美術館(2010年)や、閉店したデパートの建物を改修したアーツ前橋(2013年)、建て替えを機に中心部や駅の近くに移転した大分県立美術館(2015年)、富山県美術館(2017年)などが挙げられる。

しかし、それよりも前に建てられた公立美術館は、中心部から離れた公園などの公有地が選ばれていることが多い。新たに土地取得を行う必要がなく、豊かな自然と静かな環境も美術鑑賞にふさわしいと考えられたからだ。板橋区立美術館も中世の城跡付近を「教育と文化の森」として整備する区の構想に基づいて建設された。

「入っても、すごいんです。」

しかし板橋区立美術館は、特色あるコレクションと展覧会企画によって不便な立地をカバーしてきた。旧中山道の板橋宿があった地縁で「江戸」に注目。当時は研究の谷間だった「江戸狩野派」を軸に作品を収集し、さらに地元ゆかりの大正~昭和期の前衛美術、芸術家村「池袋モンパルナス」に集まった画家などに注目。それに「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」などのイラスト、デザイン分野を加えた3つを基本とした。
以上は開館と同時に学芸員として就職した安村敏信さん(現・信州小布施北斎館館長)が2013年に館長として定年を迎えた時、インタビューでうかがった思い出話だ。

今回の大規模改修工事で休館中、コレクションは他館にまとまって貸し出され、3つの展覧会が開かれた。川越市立美術館(埼玉県)の「板橋区立美術館コレクションによる日本のシュルレアリスム展」、群馬県立館林美術館の「時代に生き、時代を超える 板橋区立美術館コレクションの日本近代洋画1920s-1950s」展、千葉市美術館の「板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展 ―夢のCHITABASHI美術館!?」だ。
私は最後の「ちたばし美術館」を見たが、江戸琳派の酒井抱一、鈴木其一から幕末・明治の柴田是真まで、2館の日本美術コレクションが競演する充実の内容だった。

白いタイルと壁の外観を一新。1階はガラス、2階は落ち着いた色の鋼板で覆われた

「リニューアルだよ 全員集合!」

板橋区立美術館は道路に接して立っている。そこに2009年から毎年、書店の平台に立てるPOP広告のような文言を書いた白いノボリが立つようになった。

「素通りしないで‼」「見ないと損ぜよ‼」「不便でゴメン」「来て 見て ニッコリ(^ – ^)」「隠れ家系 美術館」「板橋も江戸の内」「イタビ 36歳 脂(あぶら)のってます」「入っても、すごいんです。」「永遠の穴場」――。

スタッフが案を出し合い、投票でその年のフレーズを決めているそうだが、見事な開き直りと言うべきか、アクセスの悪さを「自虐ネタ」で詫びつつ中身の濃さをしっかりとアピール。ちなみに、このコラムの小見出しもその中からお借りすることにした。

その板橋区立美術館が、装いを新たにした。外装のイメージを変更し、展示室・収蔵庫の温度・湿度・照度が適正に保てるよう設備などを交換。文化財の展示に求められる基準を満たし、国から国宝・重要文化財の公開許可も得やすくするために環境を整えた。同館で重要文化財の古美術を見たことはあるが、国宝はまだ展示したことがないそうだ。
さらに、手狭だった展示室も拡大した。これまでの展示面積は計456㎡だったが、2階の受付ホールにガラスの仕切りを設け、その奥のロビー空間も展示室として使うことに。これで計591㎡にまで拡大した。

リニューアルして最初の展覧会は、毎年もっとも賑わいを見せる恒例の「イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」。6月28日の内覧会では、秋篠宮家の長女眞子さまも絵本原画を鑑賞された。翌29日と30日は開館40周年とリニューアルを記念して無料開放され、多くの観客が詰めかけたという。

名物のノボリもリニューアルをアピール

「遠いけれど、親近感あります。」

ところで、板橋区立美術館の特色としてもう一つ挙げたいのは、観客に対して親切な展示に努めてきたことだ。
質の高い展覧会をめざす一方、多くの人に楽しんでもらえるように工夫を凝らすのが「板橋方式」。展示解説を分かりやすい言葉で書き、文字を大きく印刷して、難しい言葉には読み仮名を振る。古美術は作品保存上の観点から展示ケースに入れるのが普通だが、かつて屋敷などに置かれていた時のように畳を敷いて屏風を展示したこともある。浮世絵の人物を抜き出して作ったマスコット人形も、おなじみのアイテムだった。

そうした親しみやすい展示方法は、板橋区立美術館の影響もあるのか、他の美術館に少しずつ広がっている。千葉市美術館では「板橋区美×千葉市美 日本美術コレクション展 ―夢のCHITABASHI美術館!?」の会期中、ロビーにマスコットの撮影コーナーが設けられ、1階入り口には「ようこそ、たどり着きました。」「遠いけれど、親近感あります。」などと書かれた自前のノボリが、ご本家・板橋区立美術館のノボリと交互に立てられていた。

千葉市美術館に並べられたノボリ=6月22日撮影

「永遠の穴場」

千葉市美術館もJR千葉駅から徒歩約15分、バスの本数も少ない場所にある。日本の近世絵画や浮世絵、近代版画、現代美術に至るまで特色あるコレクションを擁し、すぐれた企画展で注目されてきた点も板橋区立美術館と似ている。

実はその千葉市美術館も、2020年1月から半年間かけて改修工事を行い、同年 7 月にリニューアルオープンする予定だ。同じビルに入っていた区役所がそっくり別の場所に移転したため、空いたフロアも新たに美術館のスペースとして使うことにした。コレクション展示室やアートライブラリー、工具などを揃えたアトリエなどを新設し、美術館活動を拡充する。

板橋区立美術館と、千葉市美術館。どちらの美術館も今まで以上に地元の住民に親しまれるとともに、遠路をいとわずやって来る美術好きたちにとって「永遠の穴場」であり続けてほしい。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 高野清見)

改修工事で床を明るいフローリングに変更した。カラフルなイスも置かれ、くつろいだ雰囲気の「2019 イタリア・ボローニャ国際絵本原画展」会場

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