ドラマチックなハマのチャイナドレス 「装いの横浜チャイナタウン」展 【モードな展覧会】第3回

ファッションとアートには深い関わりがあります。美術館やギャラリーを持つブランドも多く、「美」を作る者同士、触発しあう関係にあります。そんなファッションにゆかりがある「モードな展覧会」を読売新聞の記者が紹介します。

立ち襟に艶のあるサテン、脚が美しくのぞくスリット…。映画などに登場するチャイナドレス(おすすめはウォン・カーウァイ監督の「花様年華」!)には、どこかドラマチックな雰囲気があります。実際、「旗袍(チーパオ)」と呼ばれるチャイナドレスにはさまざまなドラマがあり、歴史があります。その変遷を横浜に暮らした女性たちの姿からたどる展覧会が横浜市の横浜ユーラシア文化館で開催中です。

会場入り口の撮影スポット。チャイナドレスの変遷がわかる

貴重なリアルクローズは必見

文化館は2003年開館ですが、もともとの建物は1929(昭和4)年に横浜中央電話局の局舎として建てられた横浜市認定の歴史的建造物。雰囲気があります。

館内への入り口。レトロな建物がすてき

 

今回の展覧会は横浜開港160年の記念展として企画されたもの。横浜に暮らす華僑の研究をしている副館長で主任学芸員の伊藤泉美(いずみ)さんが、縁をたどって提供してもらった日本で暮らした女性たちのリアルなチャイナドレスが並びます。横浜中華街にあった仕立て店(すでに閉店されたそう。涙…)で使っていた道具やボタンなどの小物も並び、これを逃すとなかなか見られない展示は必見です。

関東大震災が広めた? 旗袍

1859年に横浜が開港したころの中国系の女性たちの日常着は、上下にわかれたツーピースでした。当時の本や浮世絵などにその姿が描かれています。

「南京婦人」  『横浜開港見聞誌』第6編 1865年 横浜開港資料館所蔵

 

1920年代に漢族の長着をより活動的にスタイリッシュに仕上げた旗袍が誕生し、30年代にかけて、中国国内で大流行していました。

そして、横浜中華街は1923年に関東大震災にあいます。「多くの華僑が故郷の上海や広州に帰ったのを機に、当時、中国の最新モードだった旗袍を日本に持ち帰ったようです」と伊藤さん。それによって日本に広まった可能性もありそうです。

1929年に横浜の長崎写真館で撮影された婚礼写真と、新婦が実際に着ていたウェディングドレス

 

当時の記念写真からチャイナドレスの形がわかります。首から肩にかけての線はぴったりしていますが、全体的にややゆとりがあるシルエットです。

中華街の朱雀門近くにあった写真館で1941年に撮影された写真(李全英氏所蔵、横浜ユーラシア文化館提供)

 

中華街を支えた女性たちの個性

戦後のチャイナドレスの変遷は中華街を支えた女性たちのドラマとともに展示されています。

女性たちの姿と仕立てられた実際のチャイナドレスが並ぶ

 

夫とともに中華料理店「順海閣」を興した葉肖麟さん(1915~2014年)が香港で仕立てたオパール・ベルベッドのドレスや、故郷の村から男装して逃げてきた曽西玲さん(1923~2018年)のブラックフォーマル、蒋介石軍の従軍看護婦だった呉廷信さん(1930~1986年)のエメラルドの縁取りが美しいチャイナドレスなど、服からその人生までが見えてきます。

日本の着物のように、戦後はチャイナドレスも日常着ではなく、晴れ着や礼服としての出番が増えてきたといいます。

カラフルな刺繍の婚礼衣装

ボタンや襟もかわいい

会場にはチャイナドレスのコレクター、広岡今日子さん所蔵のチャイナドレスが描かれたポスターやヴィンテージもののチャイナドレスも並びます。

チャイナドレスの襟が古びたら交換できる作りになったチャイナドレスもあり、会場には襟だけを並べた展示もありました。婚礼衣装など華僑の暮らしぶりを展示から知ることもできます。

広岡今日子氏所蔵の1910年代の森永ミルクのポスター

 

チャイナドレスは体形にあわせて仕立てるので、着る人の好みが服に映ります。打ち合わせのボタンの選び方、丈の長さやスリットの深さ、柄の選び方など、細かく見ていくと、当時の女性たちがどんなことを思って服を作ったのかが伝わるような気もします。

襟のデザインも美しい。広岡今日子氏所蔵

 

「つてをたどってチャイナドレスを探しに行くと、遺品の整理ですんでのところで捨てられるところだった服もあります。服から横浜の歴史を知ってもらえれば」と伊藤泉美さん。展示を見てから中華街に行くと、これまで見ていた街の姿がちがってみえるかもしれません。

観覧のおともに

展示にあわせてミュージアムグッズとして、閉店した仕立て店が在庫で持っていた端切れなどが売り出されていました。現品限り、売り切れ次第終了ですので、気になる人は早めにチェックした方がよさそうです。

 

「装いの横浜チャイナタウン―華僑女性の服飾史」

2019年4月13日(土)~ 6月30日(日)  横浜ユーラシア文化館(横浜市中区日本大通)

*伊藤泉美さんが解説するギャラリートーク(約45分間)も次の日時に予定されています!

6月15日(土)15:00~
6月23日(日)11:30~
6月28日(金)15:00~

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