インスタ映えする重機たち 【きよみのつぶやき】第13回  企画展「工事中!」

ベテランアート記者・高野清見が、美術にまつわることをさまざまな切り口でつぶやくコラムです。

 

企画展「工事中!」~立ち入り禁止!?重機の現場~

2019年2月8日(金)~5月19日(日)

東京・お台場 日本科学未来館

※巡回予定はありません。

 

展覧会の公式サポーター、「ANZEN漫才」のみやぞん(左)、あらぽん(右)
背後は「双腕重機(四脚クローラ方式双腕型コンセプトマシン)」。2本の腕、4本の脚で自在に活動でき、東日本大震災の復旧工事で威力を発揮した

重機、その美しきメカニック

美術展を回っている人間にはやや縁遠いはずの日本科学未来館(東京・お台場)に、とても気になる展示物が集結している。油圧ショベル、ブルドーザ、クレーン。それに用途は分からなくても何だかとても強そうな「双腕重機」(四脚クローラ方式双腕型コンセプトマシン)――。
土木・建設の現場で活躍する重機と、工事を支える最新技術を紹介する「工事中!」展では、一部を除いて撮影OK。それが実にフォトジェニック(写真写りがいい)、最近の言葉なら「インスタ映え」する被写体ばかりなのだ。

ディテールを鑑賞する

その中でも真っ先に魅せられた重機が、1961年に初出荷された国産初の油圧ショベル「Y-35」。高度経済成長期の建設現場を支え、商品名の「ユンボ」が油圧ショベルの代名詞として広まるほど普及したという。2016年には国民生活に大きな影響を与えた科学技術として、国立科学博物館が「未来技術遺産」に登録している。

一面銀色の塗装はサビ防止のためで、オリジナルとは異なる。しかしメタリックな輝きは、運転席の形状からキャタピラ、配管やボルトのディテール(細部)に至るまで、遠目には武骨そうだが細かい所まで神経の行き届いたデザインを際立たせている。元の状態を保ったメンテナンスが行われ、現在でも動かすことが可能だというのもうれしい。

1961年に登場し、高度経済成長期の建設現場を支えた国産初の油圧ショベル ユンボ「Y-35」
「Y-35」を部分拡大してみると、ディテールのデザインが際立つ

魅力的な「おしり」に注目

重機は後ろ姿も見どころの一つ。昔と比べてずいぶんと丸みを帯びたデザインなのは、旋回時に万が一、人にぶつかってしまった時でも衝撃を軽減するためだろう。
一部の油圧ショベルは運転席付近のカバーを取り外した状態で展示され、普段なら見られないエンジンなども観察することができる。

油圧ショベルの美しいおしり。中央奥はユンボ「Y-35」

思い出のコンクリートホッパー

展示物の中で、特に懐かしさを覚えたのはダム工事などでコンクリートを打設地点に運ぶ円錐形の容器「コンクリートホッパー」だ。
私の亡父は中堅ゼネコンに勤め、1970年代には県営ダムとして日本一とうたわれた山口県萩市上流の「阿武川ダム」建設(1975年完成)で現場所長を務めた。小学生だった私と兄は、土曜日の放課後などに建設現場まで連れて行かれ、そのたびに高さを増したダムを見学した。ダムの躯体にコンクリートを流し込むのに使われていたのがこの容器。「祝 三十万立米(りゅうべい)達成」などと書いた幕を垂らし、コンクリートホッパーの前で父たちがバンザイをしている記念写真が、今でも実家には何枚も残っている。

コンクリートホッパー

 

会場には、ミニ油圧ショベルの運転席に試乗できるコーナーもある。実際に動かせるわけではないが、普通の車を運転するのに比べ、高度なマシンを意のままに操るような快感がある。もしアニメ「機動戦士ガンダム」のモビルスーツに搭乗したら、こんな気分を味わうのだろうか。

ミニ油圧ショベルの試乗コーナー

 

展示された最新の作業着もスタイリッシュで、土木の現場では機能性を優先するだけでなく、働く人の快適性やファッション性も重視されるようになったことがよく分かる。最近では何かとAI(人工知能)を使った最先端の技術が注目され、人間の存在感が希薄になってきているが、「工事中!」展の会場では「人馬一体」ならぬ「人と重機」の一体感が感じられた。

機能性とファッション性を備えた作業服

主役はあくまで「人間」

展覧会を監修した高橋良和・京都大学大学院工学研究科教授(土木工学)は、開会式の挨拶で「重機は人間と置き換わるものではなく、あくまで人間の手では出来ないことをサポートするものだということを強く伝えたい」と述べていた。
機械が人間を操るのではなく、あくまでも主役は人間。そのことを心に留めるべきなのは、重機の世界だけではないだろう。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 高野清見)

まるでデザイン展? カラフルな工事標識コーナー

 

直前の記事

エッセイスト・岸本葉子×「トルコ至宝展」 【スペシャリスト 鑑賞の流儀】 

【スペシャリスト 鑑賞の流儀】は、さまざまな分野の第一線で活躍するスペシャリストが話題の美術展を訪れ、一味違った切り口で美術の魅力を語ります。 今回はエッセイストの岸本葉子さんに、国立新美術館(東京・六本木)で開催中の「

続きを読む
新着情報一覧へ戻る