時代を映すタイムカプセル  「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」展 【モードな展覧会】第1回

ファッションとアートには深い関わりがあります。美術館やギャラリーを持つブランドも多く、「美」を作る者同士、触発しあう関係にあります。そんなファッションにゆかりがある「モードな展覧会」を読売新聞で長くファッションを取材してきた生活部の記者が紹介します。

 

岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」

2019年1月26日(土)~4月7日(日) 東京都庭園美術館(東京・白金台)

 

《夜間訪問》©Okanoue Toshiko, 東京国立近代美術館蔵

 

クリスチャン・ディオールにバレンシアガ。1950年代いまや伝説となっているデザイナーたちがートクチュール(高級注文服)牽引した時代でした。そんな時代のきらめきを閉じ込めたような展覧会が東京・目黒の庭園美術館で開催されています。 

「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」は、今年91歳になった岡上淑子(おかのうえ・としこ)さんが1950年代に手掛けた作った作品を集めた展覧会。フォトコラージュとは写真を切り抜き貼り合わせた作品のことで、彼女が切り抜きに使ったのは、当時のファッション誌「VOGUE(ヴォーグ)」や「Harper’s BAZAAR(ハーパースバザー)」のほか、「LIFE」などの洋雑誌の写真でした。展覧会では、当時のディオールバレンシアガの優美なドレスも参考展示され、時代の雰囲気も併せて作品の魅力を紹介します。 

 

半世紀ぶりによみがえった茶箱の中の作品たち 

タイトルの「沈黙の奇蹟」には、企画した学芸員の神保京子さんの思いが込められています。実は岡上さんの作品は発表当時日本のシュルレアリスム運動の中心人物瀧口修造に評価されるなど、話題を呼びましたが、岡上さんは、結婚・子育てを機に作品制作から遠ざかります。岡上さんが「茶箱の中にしまっていた100枚以上の作品が再評価されるきっかけになったのは2000年に開かれた44年ぶりの個展でした。 

岡上さんのドラマチックな作品は、約半世紀の時を経て、世に出てきたわけです。岡上さんは詩も発表していて、深夜ひそやかにバラが目覚め、艶やかに花弁光景を描いた詩「祈祷室の薔薇」のイメージと今回の展覧会が重なります。 

《懺悔室の展望》©Okanoue Toshiko, ヒューストン美術館蔵

 

幻想と力強さと自由さと  

展覧会は本館の「マチネ」(フランス語で朝をさし、舞台の昼公演の呼び名になっています)と別館の「ソワレ」(同、夕、夜公演の意)にわかれていて、最初に迎えてくれるのが「幻想」。馬がにょっきりと鏡やカーテンから顔を出し、しどけない下着姿の女性の顔が馬になっている。デコラティブな部屋の雰囲気がアール・デコ調の美術館の空間に良く似合います。 

《幻想》©Okanoue Toshiko, 個人蔵

 

岡上さんは、通っていた文化学院の課題だった「ちぎり絵」にヒントを得て、コラージュの面白さに目覚めたそう。「ある種無邪気に取り組んだからこそ、見えてきた時代性を感じます。戦争の傷跡が残る中で、彼女の無意識の中にある自由や希望への願望が映し出されている」と神保さん。 

作品は、まったく古さを感じさせず、むしろ半世紀たった今だからこそピタッと収まる斬新さもあります。彼女が描く女性は、デフォルメされて、力強く、奔放で、自由。それが今の時代の私たちの背中を押してくれるようなメッセージとなって響きます。 

 

《口づけ》©Okanoue Toshiko, 高知県立美術館蔵

 【鑑賞のおまけ 

庭園美術館はカフェが併設され、展覧会にちなんだメニューもあります 

今回は、岡上さんがハサミで雑誌を切り取っていたことから、チョコレートの小さなハサミがちょこんとのったオリジナルケーキ「ローブ」(850円)。ピンクのクリームに銀色のアラザンがのり、ドレスのようにすそが広がった甘酸っぱいケーキです。庭園美術館オリジナルのノリタケのお皿も素敵なのでぜひ 

 

( 読売新聞東京本社編集局生活部次長 大森亜紀)

*1990年、読売新聞東京本社に入社して山形支局に赴任。酒どころで鍛えられたおかげで、いける口になる。医療情報部を経て、生活部でファッションや食などを担当。趣味は、世界の美術館&料理教室めぐり。

 

2階広間では岡上淑子の作品をパネルにして展示。観客はここだけ撮影することができる
《幻想》©Okanoue Toshiko, 個人蔵

 

 

 

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