フランス歴代大統領の公式写真が語りかけること【パリ発!展覧会プロデューサー・今津京子のアート・サイド・ストーリー】第2回 

ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングル 《フランス王子、オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボン=オルレアンの肖像》1842年 ルーヴル美術館 Photo © Musée du Louvre, Dist. RMN-Grand Palais / Angèle Dequier /distributed by AMF-DNPartcom

「オルセー美術館展」(2014年)、「プラド美術館展」(2018年)などこれまでに日本国内で数十の大型展覧会を手がけたパリ在住の展覧会プロデューサー、今津京子氏によるレポートです。

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展覧会には監修者という立場で、構成や具体的な内容を決める役割の人がいる。美術史家、あるいは美術館の学芸員が就任することがほとんどだが、彼らの作品や作家にまつわる専門知識は幅広く、奥深い。仕事がら彼らと接していると、時に面白いこぼれ話を披露してくれることがある。

現在、大阪市立美術館で開催されている展覧会「ルーヴル美術館展 肖像芸術 —人は人をどう表現してきたか」は、肖像画がテーマだ。 人が人を描くのには様々な理由がある。死者を記憶に留めるために、あるいは支配者が権力を示すために。古代から19世半ばの作品でそれらが章立てに説明されている。

この展覧会には、19世紀フランスの有名画家、ジャン=オーギュスト=ドミニク・アングルの「フランス王太子、オルレアン公フェルディナン=フィリップ・ド・ブルボン=オルレアンの肖像」という作品が展示されている。描かれているのは7月王政(1830-1848)時代の国王ルイ=フィリップの長子だ。軍事遠征で名をあげ、勇敢、優秀との評判で、文化芸術の擁護者でもあり、国民の人気を集めていた。いつもは肖像画を描くことにためらいを感じているアングルだったが、彼から注文を受けて誇りを感じて引き受けたという。ところが、肖像画が完成して間も無く、不慮の馬車の事故で王太子は亡くなってしまう。享年32歳だった。

正面を向いた肖像は、赤と黒の総司令官の制服を着ている。その表情は厳しいというよりは、高貴で和やかだ。暗い背景、その縦と横の線の中に体の輪郭が浮かび上がり、全体を優美な印象にまとめている。この肖像画は、フランスで国宝に指定され、ルーヴル美術館では主要な大絵画室に飾られているが、今回、日本初公開となった。実はこの作品がその後のフランスの大統領の公式写真のモデルになったのだという。

 

19世紀後半から多くの大統領がこのスタイルを踏襲していて、その一例がシャルル・ド・ゴール将軍の肖像(在任195869年)。正装し、書斎に立つ姿は威厳と知性がほとばしる。その流れを大きく変えたのが、三色旗の前に立つジスカール・デスタン氏(同197481年)だった。由緒正しい貴族の家柄で超エリートの優等生であることを引き立たせすぎないような、自然な微笑みでスタイリッシュな演出を目指しているようだ。そして庶民派と言われたシラク大統領(同19952007年)の背景は書斎ではなく庭だった。

現在のマクロン大統領(同2017年−)は伝統的なスタイルに戻り、書斎机の前に立っている。開いた窓からは庭が見える。若さが彼の武器だが、同時に、正面から見据えて威厳を感じさせるようなポーズをあえて取っているようにも感じる。そして机の上、画面の左下にはiPhone(アイフォーン)。小物が時代を反映している。

こうしてみるとセルフプロデュース(自己演出)の肖像画とは、意識的あるいは無意識的に見せたい自分を発信する。絵画作品の中のモデルがどのような人なのかということだけなく、どのように見られたかったのか、作品の前に立っていると時空を超えて語りかけてくると感じることがある。そして今日はセルフィー(自撮り)の時代。貴方が人に見せたい貴方自身とは。そんなことを考えながら展覧会を回るのもまた楽しいかもしれない。

(展覧会プロデューサー 今津京子)

 

※「ルーヴル美術館展」(大阪市立美術館)は2019年1月14日(月・祝)まで。月曜(12月24日と1月14日をのぞく)と12月28日(金)~11日(火・祝)は休館。

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