美術館あるあるシリーズ② 「鉛筆以外の使用はご遠慮ください」

美術館に行くと、「なぜ?」と思うような注意事項を目にします。【美術館あるある】では、「そういうことって、あるある」と思わずうなずいてしまう戸惑いや疑問を、不定期で考察します。

 展覧会を見る楽しみは、鉛筆を削るところから始まります。

なぜなら美術館や博物館の展示室を回っている時、展示説明の内容や、思い浮かんだ感想や発見をメモしたいと思っても、鉛筆以外の筆記用具を使うのを禁じている館が多いからです。

展示した作品や資料はもちろん、ガラスケースや他の観覧者の服を汚したり、傷つけたりしないように、という配慮でしょう。

 前もって受付に申し出ると、鉛筆を貸してくれます。しかし帰る時に返すのを忘れ、次にその美術館の展覧会を見に行った時に事情を話して返却し、バツの悪い思いをしたことがありました。今では休日に持ち歩くカバンやトートバッグに、あらかじめ1本ずつ、キャップ付きの「マイ鉛筆」を忍ばせています。

 ただし、鉛筆なら何でもいいわけではありません。漫画やアニメのキャラクターが印刷されたものや、メタリック塗装の鉛筆は、展示室に座っている監視員(監視係)からシャーペンやボールペンと間違えられるおそれがあります。

 自身の体験を四コマ漫画に描いた岐阜県美術館の監視員、宇佐江みつこさんの『ミュージアムの女』(2017年、KADOKAWA刊)にも、一番のおすすめは「ふつうの鉛筆」で、「はじめから鉛筆持参でメモをとっている方は監視係もとても安心です」と書かれています。

そう、監視員に安心してもらうことが大切です。私が愛用するのは三菱鉛筆の「ユニ」「ハイユニ」。小学生の時からデザインが変わらないロングセラーで、これなら監視員の誰が見ても「鉛筆」と分かるでしょう。書き味が軟らかい「B」や「2B」が好みです。

 と、ここまで書いて、美術館や博物館がどんな禁止条項を設けているのか気になり、改めて公式サイトの注意事項を調べてみました。いくつかご紹介しましょう。

 「インク式筆記用具(万年筆、毛筆、ボールペンなど)、色鉛筆、シャープペンシル及び消しゴムの使用(鉛筆のみ使用可)」(国立国際美術館)

 「展示室では、鉛筆以外の筆記用具の使用はご遠慮ください。※ボールペン、万年筆、マジック、シャープペンシルなどは、インクや芯が飛散するおそれがあるので、ご使用いただけません」(横浜美術館)

 「鉛筆・シャープペンシル以外の筆記用具のご使用はなさらないで下さい」(三井記念美術館)

 「筆記用具は鉛筆かシャープペンシルのみご使用ください。また、壁や作品の前にある柵に紙などをあててのメモはご遠慮ください。ご入用の方は入場券売場にて、下敷きをお貸しいたします」(大原美術館)

 鉛筆以外の筆記用具の使用はできません。色鉛筆やシャープペンシルもご遠慮いただいております」(東郷青児記念 損保ジャパン日本興亜美術館)

ーー インク系が禁止されているのは共通しますが、シャーペンは対応が分かれました。横浜美術館は「芯が飛散するおそれ」と禁止理由を説明しています。

シャーペンの軸の後ろに付いているキャップと消しゴムが抜け、芯が床に散らばった光景を想像します。もっとも、それくらいで展示室が混乱に陥るとも思えません。むしろ金属で作られたシャーペンの先端が、作品や他の観覧者に当たることを懸念しているのでしょう。また、「色鉛筆」を禁じている館もありました。

さて、 鉛筆を持参したからといって油断してはいけません。展示室でメモを取る段になったら、監視員がどこにいるかをさりげなくチェックします。こちらの手元が見えないと、監視員がそっとイスを立って移動するのが分かります。私が手にしているのが鉛筆であることを確かめると、何事もなかったように定位置に戻っていきます。

これで一安心かと思えば、次の展示室には別の監視員がいて、同じような無言劇が繰り返されます。その心理戦(?)に負け、いつのまにか監視員の目が届く位置でメモを取るようにしている自分に気づくこともあります。

 最近の展覧会では、やおらスマホを取り出し、ネット検索で調べものをしたり、メモ機能で何かを書き留めたりする観客も見かけるようになりました。さすがに展示室で電話をかける人はいませんが(着信した電話に出てしまう人は結構います)、作品を許可なく撮影する人がたまにいるので、監視員の方たちはスマホにも神経をとがらせているはずです。

 もうすぐ年の瀬。年明け早々に始まる展覧会のリストを見ながら、心静かに鉛筆を削ることにしましょう。

(読売新聞東京本社事業局専門委員 高野清見)

「マイ鉛筆」とメモ帳。芯が折れたり、磨り減ったりした時に備え、2~3本持っていく時も。

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