【世界のアート事情】第1回 最大規模の複合型文化芸術イベント「ジャポニスム2018 」

日が昇ってゆくエッフェル塔の特別ライトアップ © Yuji Ono

 

「オルセー美術館展」(2014年)、「プラド美術館展」(2018年)などこれまでに数十の展覧会を手がけたパリ在住の展覧会プロデューサー、今津京子氏によるレポートです。

 

 

9月の新学期とともに、フランスでも”芸術の秋”を迎えて一連のイベントのシーズンが始まった。今秋の大きな話題の一つは、日本でもしばしば報道されている「ジャポニスム2018:響き合う魂」という複合型文化芸術イベントであることは間違いない。パリ市立プティ・パレ美術館での「若冲展」の開幕。雅楽、歌舞伎、狂言などの公演。エッフェル塔のライトアップなど、イベントが相次いで報道され、フランス全般に大きく浸透した感がある。中でも若冲展は、大きな楕円形の部屋に動植綵絵30 点が一堂に展示されるという希少な機会となり、美術館の外に長蛇の列ができるほど人気を集めた。

「ジャポニスム2018」は公式企画だけで70を超え、美術、古典芸能、コンテンポラリーダンス、演劇、映画、漫画、食文化などまで、ジャンルも時代も幅広く網羅されている。国が発信する海外プロジェクトとしてはこれまでで最大だという。1991年の「英国ジャパンフェスティバル」では両国に委員会があったが、今回の「ジャポニスム2018」では、国際交流基金が全体の事務局を務めて公式企画をほぼ全て主催している。

プロジェクトは5月15 日にパリのラ・ヴィレットで行われたチームラボの展覧会でスタートした。開催日101日で約30 万人を超える入場者となり、メディアにも好評だった。

そもそも、この大規模な事業は「日本の美」総合プロジェクト懇談会が安倍総理に、大規模な日本文化紹介行事を海外で実施する構想を提言したことに始まるという。2016 年5 月、日仏友好160周年に当たる2018年に実施することが安倍総理からオランド仏大統領に提唱し合意された。

どこの美術館も3〜5年先までプログラムが決まっている状況で、準備期間2 年と短かったことが日本側関係者がもっとも苦労した点だったという。またどの程度の「フェスティバル」になるのか、測り兼ねていた向きもあったが、そうした一抹の不安感のようなものを吹き飛ばしたのが前述のチームラボの展覧会だったという。国際交流基金の伊東正伸ジャポニスム事務局部長は「大規模で斬新なチームラボの展覧会を見て、多くの人が『ジャポニスム事業は本物だ』と認識し、期待が一気に高まったように思います」と語る。

フランスに於いては、日本美術はまだまだ知られていないことを伊東部長は準備段階で痛感したという。浮世絵は知っているが若冲や琳派は知る人ぞ知る存在だったし、日仏間の美術関係者のネットワークという点でも、米国のそれと比べると、広がりや深さが十分とは言い難いと感じたそうだ。そんな中で未だフランスではあまり知られていない日本文化の側面を紹介することが両国間で確認され、浮世絵や侍というテーマはラインナップからはずされた。「フランスは芸術に対する造詣が深いので、最善のものを示せば、必ず理解いただけるだろうという確信もあり、関係者の皆様にご協力をお願いしました」と話す。

10月から11 月にかけて、安藤忠雄展(ポンピドゥセンター)、明治展(ギメ東洋美術館)、縄文展(パリ日本文化会館)、宗達の風神雷神図屏風が出品される琳派展(パリ市立チェルヌスキ美術館)、工芸、デザイン、ファッションなど1500点が展示されるジャポニスムの150年展(装飾美術館)など、大型企画が目白押しだ。プロジェクトは来春まで続く。

百数十年前に日本文化がヨーロッパに衝撃を与えたように、今回のジャポニスム2018はフランスの人々にどのような衝撃をもたらすのか、その答えが明らかになるのは何年後、何十年後かもしれない。ただフランス政府は2021年に、今度は日本でフランスの文化を紹介するプロジェクトを計画しているという。一つの文化交流が目に見える形になろうとしている。(展覧会の名称は省略しています)

 

若冲展の展示風景
© Yuji Ono

 

(展覧会プロデューサー 今津京子)

※初出『美連協ニュース140号』(201811月発行)。本サイト掲載にあたり加筆修正しました。

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