【イチローズ・アート・バー】第2回 素顔の風雲児

横山操展 ~アトリエから~ 三鷹市美術ギャラリー

201884日(土)~1014日(日)

 

 

戦後の日本画壇の風雲児、横山操(192073)の素顔に迫る「横山操展~アトリエから~」が、東京・三鷹市美術ギャラリーで開かれている。

 

基子夫人とひとり娘の彩子さんが、一昨年、相次いで他界し、この三鷹にあった横山邸のアトリエに残された作品や愛用品の多くは、地元や故郷・新潟県の美術館、教鞭をとった多摩美術大学などゆかりの地に寄贈された。

 

今回の展覧会は、このアトリエから巣立った「メンバー」を再会させる企画で、同ギャラリー副館長の浅倉祐一朗さんは、「ご遺族が亡くなられ、作品や資料を(ギャラリーに)ご寄贈いただいたのを機に、四半世紀ぶりに横山に取り組みました」と狙いを語る。

 

会場には様々な時代や技法の作品や愛用品が並んでいるが、同ギャラリーに寄贈された地元近辺の風景画や、明治・大正時代の市井の風物を取り上げた新聞小説の挿絵原画は見どころのひとつ。67年に毎日新聞に127回連載された、永井龍男の「石版 東京図絵」に横山が添えたのは、遊ぶ子供、働く職人、晩酌をする男、髪を結う女などたそがれた温かさを感じさせる生活感あふれる挿絵だった。

 

「石版東京図絵」挿絵原画 1967年 墨、紙 三鷹市美術ギャラリー蔵

 

横山は火山、変電所、溶鉱炉など日本画では異例の題材を取り上げた大作で知られ、反骨心からか人間関係でも挑発的な発言を続け、強面(こわもて)のイメージが強いが、ここではひと味異なる、叙情が漂う。細かやでやさしい、と友人が評した横山の人間性がうかがえる。

 

一方、横山らしい激しさを感じさせるのが「白梅図屏風」だ。六曲一隻の屏風のうち、4つの面=写真(上)、左4面=を切り剥がし、後日、平面に貼り付けたものだが、その切り口は無造作で、完成品を扱う丁寧さはない=拡大写真(下)=。浅倉さんは「横山本人でなければ出来ないことだと思います。乱暴に切っておきながら手元に置いていたのは、自分の創作意欲を掻き立てる何かがあったからではないでしょうか」と作品の裏にある横山の内面を推測する。

 

《白梅図屏風》 1963年 176.7×364.2cm 銀箔・墨・岩絵具 福井県立美術館蔵

 

切り剥がされた跡が残る≪白梅図屏風≫(部分)

 

箔、顔料、墨、硯、筆、刷毛。病で倒れた時にアトリエに残された画材や道具類も制作現場の様子を想像させて面白い。51歳のとき、脳卒中で右腕の自由を失い、左手を鍛えて三鷹周辺の風景を描いた。静かさを漂わせる草木、淋しげな一本道。もはや画壇への挑戦ではなく、自己の場所、歩むべき道を見つめた虚心坦懐な境地で取り組んだ息使いも伝わってくる。

 

展覧会は、家族との関係性も雄弁に物語る。夫妻で作った「手作りの年譜」もユニークだ。画家としての足取りを慈しむように直筆で書き込んでいて、微笑ましい。14歳で新潟から単身上京。20歳で中国大陸に出征し、戦後5年間にわたるシベリア抑留の後、日本画家・川端龍子の青龍社でメキメキと頭角を現した歩みを、新聞の切り抜きを添えて示している。そんな基子夫人の書や、彩子さんが描いた花の絵も「参加」し、横山家の芸術的な家風が伝わってくる。

 

 

〈操と基子夫人による手作りの年譜〉 49.5×155.2×1.6cm 多摩美術大学蔵

 

横山基子 〈華〉 92.5×33.7cm 墨、紙

 

浅倉さんが以前に取り組んだ横山展は、「三鷹市美術ギャラリー開館記念 絵画新生の熱情-横山操展」(19931014日~1123日)。実は前年秋に学芸員として着任した浅倉さんが担当した最初の展覧会でもあった。開館記念は三鷹市にゆかりの深い横山の展覧会で、という市長らの要請を受けて、実行委員会には美術評論家の村瀬雅夫さん(当時福井県立美術館館長、元読売新聞文化部記者)、基子夫人、横山の愛弟子・米谷清和さんらを招いて組織したという。図録には基子夫人や日本画家で横山の盟友でもあった加山又造さんらのエッセーも掲載された。浅倉さんも「年譜/作品リスト」を編んだ。「あれから村瀬さんも加山さんも夫人も鬼籍に入られた」と浅倉さんは少し寂しげに振り返る。

 

主も家族もいなくなった横山のアトリエは、当面、米谷さんが借り受けて作画を続けるという。遺品も僅かとなった横山邸は、次第に記憶上、記録上の存在になっていくだろう。

 

浅倉さんは、「スペースも限られている私たち(ギャラリー)がやるべきことは、大回顧展に取り組むことよりも、地元・三鷹の制作現場に焦点をあてて素顔の横山を再確認することだと思って企画しました」と語る。その狙い通り、横山の激しさ、孤独感と、家庭的なやさしさの両面が伝わってくる展覧会になった。

 

◇ ひと言

生誕100年(2020年)、没後50年(2023年)に向けて、回顧展を検討している美術館もあると思います。三鷹市美術ギャラリーは、敢えて大回顧展を追わずに、横山の制作現場への接近を試み、横山の素顔を垣間見せてくれました。今後の横山作品との対面が一層楽しみになりました。

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