【きよみのつぶやき】第2回 30周年を迎えた高松市美術館

 

常設展「181枚の記憶―高松市美術館特別展の歩み―」 高松市美術館(香川県)

2018630日~924

彫刻家の流政之さんが7月7日に亡くなられた。1975年に米ニューヨークの世界貿易センターに設置した「雲の砦(とりで)」(2001年の米同時テロ後に撤去)が有名だが、日本各地の公園や文化施設に多くの作品が置かれ、それぞれの地元で親しまれている。娘の流麻二果さんも豊潤な色彩の作品で知られる現代美術の画家だ。

訃報を聞いて思い出したのは、直前に高松市美術館で見た流さんの彫刻作品に添えられていた学芸員の文章だった。流さんは花崗岩の高級石材である庵治石(あじいし)を産出する高松市庵治町にアトリエを持ち、地元の同館でも2009年1~2月に個展を開いている。その担当学芸員だった川西弘一さんがこんな思い出話を書いていた。

「展覧会開催準備のため、週に2度程ナガレスタジオを訪問したが、かならず直立不動の姿勢で見送っていただいた。風貌は眼光鋭く、先生にお会いする度(たび)恐ろしい印象であったが、実際には大変優しい人情味あふれた方であり、展覧会で借用する作品の選定についても館の希望を叶えていただいた。ナガレ語録の中には『男子はいかなる雨の日も傘をさしてはいけない』という、つっぱり男・流の人生哲学がある。ある雨の降る日にそれを実行すべく傘をささずに先生にお会いしたところ、本当に傘も差さずに応対していただいた事が思い出深い」

私は流さんにお会いする機会を得なかったが、人となりがよく伝わる文章だと思った。

美術館が現役で活動する作家の個展を企画すると、担当に決まった学芸員はアトリエに通い、展示作品や会場構成などについて相談を重ねる。当然、作品を見ているだけではうかがい知れない素顔に接し、信頼関係を深めていくが、そうした経緯はいわば「楽屋ネタ」であり、学芸員が展覧会図録に執筆する作家論などで言及されることはほとんどない。

高松市美術館は1988年に開館。今年8月で30周年を迎えた。それを記念した「181枚の記憶」と題する展示が、常設展示室を使って行われている。同館のコレクションから20点(作家17人)を選び、その作品を展示した特別展のチラシのコピー、会期・入場者数、担当した学芸員の文章を添えて紹介している。

たとえば「木村忠太回顧展」(会期:1989年3月4~26日、入場者:6552人)を担当した毛利直子学芸員は「展覧会準備の最中に木村氏の訃報が入り、美術館に悲しみが走ったことを思い出す」と記す(木村氏は1987年7月、パリで死去)。洋画家の木村忠太は1953年に渡仏し、パリの街角や南仏の光をモチーフに鮮やかな色面の絵を描き続けた。高松市出身で、この個展が日本の公立美術館における初の回顧展だったという。日本で画業を広めたいと願っていた関係者の悲しみが想像される。

「蜷川実花展」(2017年)は人気写真家の個展とあって大きな反響を呼び、入場者は2万7863人に達した。地方美術館の個展としては大変なヒットだ。尾形絵里子学芸員は「開催初日には多くの来場者やマスコミが殺到した。トークショーから取材、テレビの生中継まで多忙なスケジュールであったが、ひとつひとつ丁寧に真摯に対応してくれたことが印象に残っている」と、開幕時の熱狂ぶりと、蜷川さんの誠実な姿勢を伝えている。父親の演出家、蜷川幸雄さんが亡くなってからまだ1年あまりしか経っていない時期のことだった。

展覧会を作り上げるまでの経緯や、作家にまつわるエピソードには、本人が公表されたくない事実やプライバシーも含まれ、何でもオープンにしていいわけではもちろんない。それでも時機をみて振り返り、可能な範囲で記録しておくことも学芸員の大切な仕事だと思う。公立美術館がいかなる意図で展覧会を企画し、どのようなプロセスを経て展示を作り上げているのか、地元の人たちに理解してもらうことにも意味があるだろう。

「181枚の記憶」には、青木陵子さんのドローイング連作「ワイルドフラワーのたね」も展示されていた。青木さん自身が今回、特別に展示構成を行ったという。1973年生まれの青木さんは、2007年にドイツで開かれた国際展「ドクメンタ12」に参加し、米ニューヨーク近代美術館にも作品が収蔵されている美術家。大小の薄い紙に繊細なタッチで描いた植物や幾何学的な模様を、壁面に組み合わせて配置する作品で知られている。

作家と学芸員、美術館との関係は、展覧会を介した一回限りのものではなく、その後も生き続ける。青木さんの作品は、そのことを雄弁に物語っているように感じた。

高松市美術館

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