【きよみのつぶやき】第1回 水平線を見つめる動物たち(「三沢厚彦 ANIMALS IN YOKOSUKA」展)

ベテランアート記者・高野清見が、美術にまつわることをさまざまな切り口でつぶやくコラムです。

 

「三沢厚彦 ANIMALS IN YOKOSUKA」展 横須賀美術館(神奈川県)

2018630日(土)~92日(日)

彫刻家の三沢厚彦さんは「ANIMALS」(アニマルズ)と題した木彫の動物を作り続けている。同じ名前を冠した展覧会も全国の美術館で開かれ、人気を集めてきた。

現在、横須賀美術館で開かれている「三沢厚彦 ANIMALS IN YOKOSUKA」展は、2007年に平塚市美術館で開催された「ANIMALS+」(アニマルズプラス)以来、11年ぶりに同じ神奈川県内で実現した展覧会だ。いや、それを言うなら「同じ湘南で」と呼ぶ方がふさわしいかもしれない。小田原市内にアトリエを持つ三沢さんにとって、海は身近な存在だからだ。

 

展覧会初日の6月30日、横須賀美術館の1階にあるレストランで開会式が行われた。目の前には芝生の斜面が広がり、その先はすぐ浦賀水道。大きなコンテナ船やタンカーがゆっくりと行き交う光景を見ながら、三沢さんはこんな挨拶をした。

 

「展示の一つのポイントとして、水平線っていうのをすごく意識したんですね。僕もここで2日、3日食べていたんですけれど、船が通っていく感じとか、風景を見ていると本当に飽きなくて、僕の展覧会なんて付録みたいなものでいいのかな、くらいに考えると、すごく気が楽になって・・・。(横須賀美術館は)台座のようなファサード(建物正面)から、地下空間に展示室が展開されている。そこで今回は、台座と(床に)じかに置くもの、四角い形と丸い穴、水平線をキーワードにして展示を作りました」

 

建築家の山本理顕(りけん)さんが設計した美術館は、海辺という立地条件から塩害防止の目的もあって、ガラスと鉄板による二重構造をしている。外から見ると大きなガラス箱の中に、白く塗った鉄の構造物が地下に半分埋もれて横たわっているような格好だ。2007年に開館した時、山本さんは笑いながら「白いクジラみたいでしょう」と言った。そのクジラのようなボリュームを、三沢さんは彫刻家らしく「台座」と感じたらしい。「丸い穴」とは採光や空調のために空けられた丸窓のこと。そこから見える海や空の色は季節や時刻によって異なり、いつ行っても見飽きることがない。

 

ところで、「水平線を意識した」とはどういう意味だろう。いぶかしく思ったが、その場で三沢さんに尋ねるのも失礼だと思って遠慮した。そして半月後、展覧会をもう一度訪れてみて、この動物たちは展示室の中から水平線を見ているのだと思った。

三沢さんが彫るイヌやクマ、ウサギたちは、上目遣いで、しかも両目がやや外に開いたものが多い。それはどこか遠くを見つめ、もの思いをしている風情にも映る。実際には、彼らの視線の先にあるのは展示室の白い壁であり、海にお尻を向けて置かれた作品もある。しかし、すべて見終わって展示室を出てきた時に思い浮かんだのは、なぜか観客の肩越しに海を見ている動物たちのイメージだった。

 

こんな発想が浮かぶのも、三沢さんの彫刻には人懐っこく、人間臭いものがあるからだろう。2000年代初め、イヌやネコをほぼ原寸大で彫って彩色した「ANIMALS」の連作を発表し始めた頃にインタビューしたが、「人間の性質に当てはめて『猫みたいな人』などと言うくらい、動物は個性が強い。そこが魅力でしょうね」と語っていた。その後のインタビューでも「本物を写すことに僕は意味を感じないんです」と言い、「ちょっと時間をおいて眺めて見る時に、割とそれっぽくなっていても置物みたいなんですよ。動いてくれない。そういう時はやり直しますね」と語った。

会場で配られる展示リストには「マルミミゾウ」「ツメナガセキレイ」などと動物の種類が律義に書かれている。しかし三沢さんは、あくまで自分のイメージを探りながらクスノキを彫っていく。完成してもノミ跡を残したままの作品は、日本の仏像の一部に見られる「鉈彫(なたぼり)像」を思わせるところもある。一見して「かわいい」と感じても、実は動物とも人間ともつかない、そして神像や仏像にもどこか通じる気配を持っている生き物たちなのだ。

今回の展覧会には、麒麟を彫った新作が展示されていた。これまでも空想上の動物であるユニコーン(一角獣)を発表しているが、それよりもずっと自由に想像力を広げた作品のように見えた。もしかすると、これからの三沢さんはこうした「異形」の生き物も次々に生み出していくのではないか。海沿いを走る帰りのバスの中で、そんな予感を楽しんだ。

 

 

(読売新聞東京本社事業局専門委員 高野清見)

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