プラド美術館展・記念講演会第3回を開催しました!

9月9日(日)に兵庫県立美術館(神戸市中央区)で、第3回プラド美術館展記念講演会「ベラスケス、人と芸術―静かなる絵画革命」を開催しました。
今回は、長年ベラスケスを研究されたスペイン美術の第一人者で、早稲田大学名誉教授の大高保二郎さんを講師にお招きし、作品に潜むベラスケスの「人間性」、「ルネサンス以来の伝統的な絵画に対する挑戦と革新」についてお話いただきました。
大高さんは、「ベラスケスの生涯は、驚くほど平凡なものである」という哲学者オルテガのことばと、マネが「画家たちの画家」と賞賛したベラスケスの才知との落差に疑問をもち、美術史ではあまり重視されない、作家の人生や生き方――すなわち「人間」に関心を持ったそうです。
例えば、ボデゴンと呼ばれる、台所の風景をモチーフとしたベラスケスの初期作品からは、それらの庶民的な空間がベラスケスにとって身近なものであったこと、また自身の改宗ユダヤ教徒(コンベルソ)としての視点から「労働」を神聖な題材として考えていたことが分かります。
ベラスケスのボデゴンにおける事物も人物も等しく無差別的なまなざしは、後の宮廷肖像画において矮人や道化の「個」を描いた肖像へと引き継がれていきます。
ベラスケスは世俗的な肖像や風景を多く描いたことで、それまで上位に格付けられていた神話や歴史をテーマとした絵が描けないのでないかと非難されました。しかし、彼はむしろその評価を利用し、《バッカスの勝利》や《ラス・メニーナス》などにおいて「物語化された肖像」を描くことで、肖像や風俗、風景といったこれまで下位と考えられてきた絵画ジャンルに存在した格差を解消し、伝統的ヒエラルキーを撤廃しようとしました。そうした「静かなる絵画革命」を作品の中に見出した時、我々はベラスケスの作品のさらなる奥深さに触れることができると、大高さんはお話になっていました。
いよいよ最後となる第4回目の記念講演会は、9月30日(日)に神戸大学教授の宮下規久朗さんをお迎えし、「バロック美術とスペインの黄金時代」というテーマで行います。詳細はこちら