インタビュー

鏡リュウジが説く、ミレイがヌードに込めた理想

鏡リュウジさん

 

西洋占星術研究家として日本をけん引する鏡リュウジ。学術的な側面での占星術や魔術への言及も深く、そのベースでもあるイギリスに何度も行き来もしている。ヌード展が俯瞰する200年の系譜のなかでも、とりわけラファエル前派に関心のある鏡氏。《ナイト・エラント(遍歴の騎士)》の不思議な第一印象をひもとく。

 

19世紀末の空気を放つ、ラファエル前派の物語性が楽しい

 

――今回は、〈ヌード〉を題材とした展覧会。なかなか〈ヌード〉について考える、なんてことはないかと思うのですが……。

 

 〈ヌード〉という言葉をハッキリと意識した最初は、大学受験でした(笑)。有名すぎるあのケネス・クラーク『ザ・ヌード 理想的形態の研究』、その英文が試験問題集の長文読解で載っていて。当時、〈ヌード〉と〈ネイキッド〉の区別を英文を訳しながら感嘆した覚えがありますね。海外の美術館では、ヌードをテーマにした展示はよく見かけますし、オーソドックスなテーマなのかなと思っていました。

 

 

――〈ヌード〉というキーワードを主張した展覧会という意味では、日本では画期的かもしれません。

 

 モチーフとしてではなく、裸の人体がなにを象徴しているのか?というのが、洋服でその時代がわかるというのと同じ意味を込めて、画家たちが描いているんですよね。アート作品を観るときは、その奥行を探りながら楽しむようにしています。ゲイ・アートにしても、80年代以前は“カッコいい”ものが多かった印象から、グロテスクというか直接的な表現になっていく様は、その時代にエイズという避けて通れないキーワードがあったから。描くことの背景を感じ取ると、いろいろ見えてくる気がします。

 

 

 

 

――ラファエル前派がお好きだとうかがいました。専門である占星術などとの共通項もあるのでしょうか?

 

 やっぱりテーマに惹かれます。ギリシャ神話やアーサー王の伝説などを題材として描いていますよね。僕らが今、キング・アーサーを思い出すとき、彼らの作品を思い浮かべませんか? 僕たちのスタンダードになっているのが、ラファエル前派の描いた作品ではないかと。ロセッティ、バーン=ジョーンズなどの世界観が好きなんです。本展では、ジョン・エヴァレット・ミレイ《ナイト・エラント(遍歴の騎士)》が展示されるということですが、いかにもラファエル前派らしい、ロマンティックな作品ですよね。でも、美女を助け出す……という絵なんでしょうが、魔女にも見える気がしませんか? 実は、この《ナイト・エラント(遍歴の騎士)》を観たときにすごく似ている構図を知っているぞと思ったんです。それは、1888年に結成された魔術結社の中で作られていた、タロットカードの絵柄でした。

 

ジョン・エヴァレット・ミレイ
≪ナイト・エラント(遍歴の騎士)≫ 1870 年 油彩/カンヴァス Tate: Presented by Sir Henr y Tate 1894, image © Tate, London 2017

 

――タロットカードの絵柄は、時代によって違うものなんですか?

 

 19世紀末に英国で結成された西洋魔術を研究する秘密結社「黄金の夜明け団」という団体がありました。ミレイの作品よりも10数年後になりますが、彼らの制作したタロットカードは、ゴールデン・ドーン・タロットと呼ばれ、現在のタロットカードのデザインの基盤となっています。ただ1枚だけ、ゴールデン・ドーン・タロットと現代のデザインが異なるカードがあるんです。それが、“恋人”のカードです。《ナイト・エラント(遍歴の騎士)》は、黄金の夜明け団が19世紀末にデザインした“恋人”のカードの絵柄に、構図がそっくりなんです。現在親しまれている“恋人”のカードは、結婚式がモチーフになっていたり、女性がふたりいてどちらにするか選択を迫られているような構図が定番。しかし、ゴールデン・ドーン・タロットでは、アンドロメダをペルセウスが救出する神話の一場面がモチーフです。それは、美女と剣を持った剣士の絵です。《ナイト・エラント(遍歴の騎士)》でも描かれているということで、この時代の先端にいた若者たちにとって、重要なテーマだったんだろうなと改めて感じました。

 

タロット〈恋人〉のカード、右がゴールデンドーンタロット

 

タロットカードは20世紀に入ると、ダリもデザインしています。タロットの世界に魅せられた代表的な画家だと、ニキ・ド・サンファルですね。ニキはタロット・ガーデンという、タロットの世界をモチーフにした理想郷を作った事でも有名です。

 

目に見えない理想を描く、星が導く時代性

 

――19世紀末は芸術分野だけ見ても、とても印象的な時代です。

 

 ラファエル前派は1848年に結成されたんですが、その2年前の1846年に海王星(ネプチューン)という星が発見されました。占星術では、海王星はヴィジョンや見えないもの、ロマンなどを象徴しています。まさに神秘的なラファエル前派の絵画世界とピッタリなんですよ。

 

さらに1848年は、マルクスとエンゲルスによる『共産党宣言』が発表されている。一見対極に見えますが、共産党宣言は、物質的社会のなかにおける“夢を見ている”わけじゃないですか。アプローチの仕方が違うだけで、同じように理想を追い求めている、そんな時代性があったのではないかと思います。

 

 

――イギリスには何度も行かれている鏡さんですが、本展ではテート選りすぐりの名品が集合しています。

 

 テートにいくのも半日かかってしまうので、一堂に集まったこの機会で観ることができるのはいいですね。僕はモチーフに興味が沸いて、作品を観たいと思うタイプ。ラファエル前派以外にも、象徴主義やシュルレアリスムも、仕事柄好きです(笑)。それに、本展はロダン《接吻》が日本で観られるのも楽しみです。

 

 

 

 

 

〈鏡リュウジプロフィール〉 1968年、京都生まれ。心理占星術研究家・翻訳家。京都文教大学、平安女学院大学客員教授。英国占星術協会、英国職業占星術協会会員など、イギリスとのゆかりも深い。『あなたの願いをかなえる、星座案内』(サンクチュアリ出版)、『占星術夜話』(説話社)ほか、著書訳書はあわせて100冊以上ある。

公式サイト http://ryuji.tv/

 

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