Structure 展覧会構成

プロローグ

展覧会の冒頭では、コレクターとしての松方幸次郎、
そして彼が思い描いた「共楽美術館」の構想の概要を
松方コレクションの象徴的存在であるモネ《睡蓮》や歴史資料とともに紹介します。
  • フランク・ブラングィン《松方幸次郎の肖像》1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
    フランク・ブラングィン《松方幸次郎の肖像》
    1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
  • フランク・ブラングィン《共楽美術館構想俯瞰図、東京》水彩・鉛筆、紙 国立西洋美術館
    フランク・ブラングィン《共楽美術館構想俯瞰図、東京》
    水彩・鉛筆、紙 国立西洋美術館
  • クロード・モネ《睡蓮》1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
    クロード・モネ《睡蓮》
    1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)

1ロンドン1916-1918

  • ヨーロッパが第一次世界大戦のさなかにあった1916年から1918年にかけて、川崎造船所を率いる松方幸次郎は自社のストックボート(既製貨物船)の売り込みと鋼材調達のため、ロンドンを拠点として滞欧生活を送りました。美術品の収集を始めたのはこの頃です。画家フランク・ブラングィンら強力な助言者を得た松方コレクションは、まずはイギリス美術や工芸を中心として急速に成長し、やがて美術館構想に発展します。

    松方はこの時期どのような画廊に足を運び、どのような人々との交流のなかで収集を始めたのか。
    このセクションでは作品と資料を通じて松方コレクションのはじまりの様子を浮かび上がらせます。

  • ジョン・エヴァリット・ミレイ《あひるの子》1889年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
    ジョン・エヴァリット・ミレイ《あひるの子》
    1889年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
  • ジョヴァンニ・セガンティーニ《羊の毛刈り》1883-84年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
    ジョヴァンニ・セガンティーニ《羊の毛刈り》
    1883-84年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)

2第一次世界大戦

松方が造船所の経営拡大を推し進めつつ、コレクションを築き始めた1910年代後半のヨーロッパは、第一次世界大戦という危機の時代でもありました。かつてない規模で激戦が各地で繰り広げられるなか、美術も戦争の理想と現実を伝える格好のメディアとなります。
松方がこの戦争による船舶特需を見通す冷徹な経営者の目を持つ一方で、そのコレクションには戦場の悲惨さを伝える作品も多数含まれていたことは興味深い事実です。
ここでは欧州大戦をめぐる版画や絵画を紹介しつつ、松方コレクションの時代背景を見ていきます。
  • リュシアン・シモン《墓地のブルターニュの女たち》1918年頃 水彩・グアッシュ、紙 国立西洋美術館(松方コレクション)
    リュシアン・シモン《墓地のブルターニュの女たち》
    1918年頃 水彩・グアッシュ、紙 国立西洋美術館(松方コレクション)

3海と船

船や海景を主題とする作品は初期の松方コレクションの特徴のひとつです。一説に松方コレクションの始まりはブラングィンによる船の絵であったともいわれるように、そこには造船業者としての松方の職業上の関心も見ることができるでしょう。
このセクションでは、ブラングィンによる造船の眺めと合わせ、日露戦争を描いたヘミーの海戦画や難破の悲劇を描いたコッテの大作、あるいは1921年の皇太子裕仁親王の訪欧を記念した海景画など、松方コレクションのなかの海と船にまつわる作品に光をあてます。
  • ウジェーヌ゠ルイ・ジロー《裕仁殿下のル・アーヴル港到着》1921-22年 油彩、板 国立西洋美術館(松方コレクション)
    ウジェーヌ゠ルイ・ジロー《裕仁殿下のル・アーヴル港到着》
    1921-22年 油彩、板 国立西洋美術館(松方コレクション)

4ベネディットとロダン

美術館設立という明確な目標を定めた松方はやがて近代彫刻の父ロダンの作品収集へ向かいます。
1918年、松方はレオンス・ベネディットが館長をつとめるパリのロダン美術館と契約を結び、大作《地獄の門》を含め、最終的には50点を超える彫刻作品を入手して世界有数のロダン・コレクションを築きました。また、ベネディットは松方の収集の協力者となり、パリを中心に買い集められた絵画や彫刻約400点からなる松方コレクションは第二次世界大戦までロダン美術館の旧礼拝堂に保管されることになります。
このセクションでは、ベネディットの役割に注目しつつ、ロダンを中心にブールデルやダルデらの彫刻作品を紹介します。
  • アメリ・ボーリー゠ソーレル《レオンス・ベネディットの肖像》1923年 油彩、カンヴァス オルセー美術館 Paris, musée d'Orsay 
Photo © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
    アメリ・ボーリー゠ソーレル《レオンス・ベネディットの肖像》
    1923年 油彩、カンヴァス オルセー美術館
    Paris, musée d’Orsay Photo © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay) / Hervé Lewandowski / distributed by AMF
  • オーギュスト・ロダン《考える人》1881-82年 ブロンズ 国立西洋美術館(松方コレクション) 撮影:上野則宏
    オーギュスト・ロダン《考える人》
    1881-82年 ブロンズ 国立西洋美術館(松方コレクション) 撮影:上野則宏

5パリ1921-1922

1921-1922年のパリを拠点とする松方の滞欧期に松方コレクションは飛躍の時を迎えます。デュラン=リュエル画廊をはじめ数々のパリの有名画廊で次々と重要作品を購入して、コレクター松方の名を知らしめました。また、この滞在期にモネのジヴェルニーのアトリエを訪れて、《睡蓮》をはじめとする作品を多数購入しています。
このセクションでは、モネやルノワール、ゴーガン、ゴッホらの名品の数々とともに、華やかなパリを舞台に成熟したコレクターとして活躍する松方の足取りをたどります。
  • フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの寝室》1889年 油彩、カンヴァス オルセー美術館 Paris, musée d'Orsay, cédé aux musées nationaux en application du traité de paix avec le Japon, 1959 Photo © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay)
	/ Hervé Lewandowski / distributed by AMF
    フィンセント・ファン・ゴッホ《アルルの寝室》
    1889年 油彩、カンヴァス オルセー美術館
    Paris, musée d’Orsay, cédé aux musées nationaux en application du traité de paix avec le Japon, 1959 Photo © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay)/ Hervé Lewandowski / distributed by AMF
  • ポール・ゴーガン《扇のある静物》1889年頃 油彩、カンヴァス オルセー美術館 Paris, musée d'Orsay, cédé aux musées nationaux en application du traité de paix avec le Japon, 1959 Photo © RMN-Grand Palais (musée d'Orsay)/ Hervé Lewandowski / distributed by AMF
    ポール・ゴーガン《扇のある静物》
    1889年頃 油彩、カンヴァス オルセー美術館
    Paris, musée d’Orsay, cédé aux musées nationaux en application du traité de paix avec le Japon, 1959 Photo © RMN-Grand Palais (musée d’Orsay)/ Hervé Lewandowski / distributed by AMF
  • クロード・モネ《舟遊び》1887年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
    クロード・モネ《舟遊び》
    1887年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
  • 「松方さんのパリ市場における威力は大したもので、これはその大規模な買い方にもよったが、また松方さんの風貌、態度、人柄、どこから見ても、パリの本場所に出して、誰れにも引けを取らぬ世界の大實業家として通り、それがため、あれほどの尊敬を博したのであろう、と私は思った。」(矢代幸雄『藝術のパトロン』1958年)

6ハンセン・コレクションの
獲得

1922年から1923年にかけて、パリのベネディットらを通じた交渉の末、松方はコペンハーゲンの実業家ウィルヘルム・ハンセンのコレクションから34点の重要な近代絵画の入手に成功します。
粒ぞろいの印象派絵画を含んだこれらの作品は、1928年から始まるコレクション散逸期にほとんどが売却されていきました。
今回の展覧会では、国内外の公共・個人コレクションに入って現在もその重要な核となっているこれらの作品群から集めた10点をご紹介します。
  • エドゥアール・マネ《自画像》1878-79年 油彩、カンヴァス 石橋財団ブリヂストン美術館/石橋財団アーティゾン美術館
    エドゥアール・マネ《自画像》
    1878-79年 油彩、カンヴァス 石橋財団ブリヂストン美術館/石橋財団アーティゾン美術館
  • クロード・モネ《積みわら》1885年 油彩、カンヴァス 大原美術館
    クロード・モネ《積みわら》
    1885年 油彩、カンヴァス 大原美術館
  • エドガー・ドガ《マネとマネ夫人像》1868-69年頃 油彩、カンヴァス 北九州市立美術館
    エドガー・ドガ《マネとマネ夫人像》
    1868-69年頃 油彩、カンヴァス 北九州市立美術館
  • エドゥアール・マネ《ブラン氏の肖像》1879年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
    エドゥアール・マネ《ブラン氏の肖像》
    1879年頃 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)

7北方への旅行

1921年に渡欧した松方は海軍からドイツのUボートの設計図入手を秘密裏に依頼されていて、派手な作品購入はその隠れ蓑であったともいわれます。実際、1921年8月頃に松方はドイツやスイスを訪れており、ゴッホやセザンヌなどフランス近代絵画のほかに、ムンクなどの北欧の同時代の画家の作品やフランドルの古画なども入手しました。またベルリンでは17点もの大型タペストリーも購入したといわれています。
ここでは、松方コレクションがその奥行を深めた北方への旅に光をあてます。
  • エドヴァルド・ムンク《雪の中の労働者たち》1910年 油彩、カンヴァス 個人蔵(国立西洋美術館に寄託、旧松方コレクション)
    エドヴァルド・ムンク《雪の中の労働者たち》
    1910年 油彩、カンヴァス 個人蔵(国立西洋美術館に寄託、旧松方コレクション)

8第二次世界大戦と
松方コレクション

昭和金融恐慌のあおりで川崎造船所が経営破綻に陥り、松方が社長を引責辞任した1928年以降、第二次世界大戦期にかけて、松方コレクションは散逸の時代を迎えます。
国内では差し押さえられた作品群の売立が1941年まで続き、ロンドンでは1939年に倉庫保管分が火災で灰燼に帰す一方、1940年、400点あまりの作品がロダン美術館に保管されていたパリではドイツ軍の侵攻が迫っていました。
このセクションでは、第二次世界大戦を軸として、疎開時代を経て、1944年のフランス政府による接収、戦後の日仏政府間の返還交渉と、時代の流れに翻弄されたパリの松方コレクションが1959年に国立西洋美術館設立へ結実するまでの流れを見ていきます。
  • ピエール=オーギュスト・ルノワール《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》1872年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
    ピエール=オーギュスト・ルノワール《アルジェリア風のパリの女たち(ハーレム)》
    1872年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
  • ピエール=オーギュスト・ルノワール《帽子の女》1891年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)
    ピエール=オーギュスト・ルノワール《帽子の女》
    1891年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(松方コレクション)

エピローグ

モネの《睡蓮、柳の反映》はかつて松方コレクションにありながら、長らく行方がわからなかった作品です。2016年フランスでカンヴァスの上半分が失われた状態で発見され、翌年、松方家から国立西洋美術館に寄贈されました。半世紀を経たこの「幻の睡蓮」は、20世紀の激流を乗り越えてきた松方コレクションの象徴的存在といってもいいでしょう。
展覧会の最後のセクションでは、修復した本作品を初公開します。
  • クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)
    クロード・モネ《睡蓮、柳の反映》
    1916年 油彩、カンヴァス 国立西洋美術館(旧松方コレクション)※修復前