若林奮 森のはずれ

東京都

自身と周縁世界との関わりをめぐる思索を内包した作品により、戦後日本の彫刻を牽引した若林奮(1936~2003)。一見すると寡黙で非情緒的とも思われる形態は、自然や時間、距離、空間、表面、境界など、我々を取り巻く普遍的で形を持たない事象を豊かに内包し、没後20年となる今もなお、私たちが考え、向き合うべき多くを語りかけてくれる。
若林は武蔵野美術大学在任時の1981年、学内にある工房内に鉄板をたて、自分自身のために10畳ほどの空間を作った。その後若林は、この通称「鉄の部屋」の周囲を鉛で覆い、周辺に植物や大気を表す鉛の板やキューブを配置して《所有・雰囲気・振動―森のはずれ》(1981–84年)として発表。自分自身が所有できる空間を区切ることで生まれた境界や領域をめぐり、自身を軸とした周縁、自然への思索を一層深めていった本作は、若林自らを含んだ自然や風景そのものの具現化を試みた作品といえるかもしれない。若林が彫刻観を拡張させるきっかけとなった極めて重要な本作を、本展では約30年ぶりに展示する。
また、おなじく自然の精緻な観察をとおして生まれた《Daisy Ⅰ》(1993年)は、人の背丈ほどある角柱に、植物そのものの構造を想像させる彫刻である。ともに自然や風景を具体的な対象とした《所有・雰囲気・振動―森のはずれ》と《Daisy Ⅰ》全10点すべてが、同館の一続きの空間で相対する場で、活動中期から後期にかけて色濃く表れる、若林彫刻の核といえる「自然」をめぐる諸相を読み解くことを試みる。さらにこの2作品再考の糸口となる彫刻として、自身と世界との距離を計るものさしとして1970年代以降通底する概念となる《振動尺》Ⅰ~Ⅳ(1979年)、80年代終わりから若林にとって重要な素材の一つとなる硫黄を用いた《The First White Core》Ⅰ~Ⅲ(1992年)などのほか、若林の夥しい思索の一端が見えるドローイングや小品、資料約100点を展示する。
「自分が自然の一部であることを確実に知りたいと考えていた」という若林が、世界をどのように知覚し、そこで見出した概念をいかに彫刻化したのか。若林が「森のはずれ」に思索を重ねたここ武蔵野の地で、若林彫刻の意義を再考する。

開催概要