石ノウエ二描ク 石版画と作り手たちの物語

版画は凸版、凹版、孔版、平版に大きく分けられ、リトグラフは平版の一種である。ほかの版式では、彫るなどして版に凹凸を作り、あるいは版に孔をあけて原版とするが、リトグラフは版面が平らなままで水と油がはじきあう性質を利用して版を作る。ほかの版式に比べて不思議にも感じられるかもしれないが、意外とわたしたちの身近なところにあって、一般的な印刷に使われているオフセットもリトグラフから発展した技法だ。
リトグラフは、18世紀終わりにミュンヘンでアロイス・ゼネフェルダーが発明し、1798年頃に「化学的印刷術」として完成されてヨーロッパに普及した。版の材料として天然の石灰石を使ったため、 ギリシア語で石を指す「リトス lithos」による版画、リトグラフと呼ばれた。はじめは楽譜や地図の実用的な印刷に使われたが、19世紀には画家たちがこの技術によって版画作品を制作するようになった。版画の技法のなかでもリトグラフの画期的なところは、版に描かれた痕跡を、彫師の手を経ないで残らず製版し、印刷できることだった。彼らは製版に使うリトクレヨンや、ペンや筆につけた解き墨を使い、手描きの繊細で自由なタッチや、水彩画のようにやわらかなにじみなどによる豊かな表現を追求している。また、優れた製版、印刷の技術を持つ版画工房との共同作業も大きな実りをもたらした。
日本にリトグラフ印刷機がもたらされたのは、1860年のこと。プロイセンの使節が印刷機一式を幕府に贈ったという。そして、明治時代には欧米から指導者が迎えられてリトグラフによる様々な 実用印刷物が制作されて普及し、そのなかから版画も生まれた。その後、美術学校などでも教えられるようになると、国内あるいは国際的な展覧会でも活躍する石版画家たちが現れた。本展では、ムンクやルドンの名品や、織田一磨の『東京風景』『大阪風景』から現代の作品まで、同館の東西の版画コレクションを中心に、石版画の歴史とともにその魅力を紹介する。
開催概要
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会期
2023年4月22日(土)〜7月2日(日) -
会場
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観覧料金
当日一般520円
詳細は公式サイトへ
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休館日
月曜日
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