札幌美術展 艾沢詳子 gathering―集積する時間

北海道

札幌市を拠点に活動する版画家・艾沢詳子は、銅版画からそのキャリアをスタートさせ、生命のありようをテーマとしたモノクロの世界を作り上げてきた。二度の渡米を経て、支持体に糸や紙などを貼りつけ凹凸のある版をつくりプリントする技法(コラグラフ)や、石膏や溶かした紙を用いた型取り(キャスティング)に取り組むなど、従来の版画のあり方にとらわれない、版の拡張ともいえる挑戦を続ける。やがて、それらは古紙やティッシュペーパーをロウで固めた人型のオブジェを無数に配置するインスタレーションの制作へと結実していく。
艾沢は一貫して、目には見えなくとも、確かにそこに在るものを表現してきた。日々の暮らしの中で抱く、言葉では捉えきれない感覚や印象は、時とともに消えてしまう。しかし、艾沢はそれらをすくい取って自身の中に集積し、その輪郭を確かめるように形を与えていく。立ち現れた光景には、艾沢がこれまで過ごしてきた親密な時間が息づき、観る者それぞれが抱く記憶をも想起させるだろう。
本展では初期の具象的な銅版画のほか、転機となった、床一面に広がる《石膏ドローイングインスタレーション》(1996年)の再制作作品、近年精力的に取り組むアートとテクノロジーが融合する新作を含む約80点を展示。常に現状を更新し、新たな制作を続ける作家の創造世界はが楽しめる。

開催概要