展覧会構成 Structure

1日常礼賛−デンマーク絵画の黄金期

19世紀前半のデンマーク絵画は「黄金期」と呼ばれ、多くの芸術家が現れて多彩な創作活動を展開しました。風景画においては、首都コペンハーゲン郊外にスケッチ旅行に出かけるなど、自然の直接的な観察を通じて身近な自然に美的価値を見出しました。一方、肖像画においては、モデルの社会的地位を象徴する形式ばった表現から、打ち解けた、飾り気のない親密な描写へと移行していきます。それらの注文主は多くの場合、以前のように王侯貴族ではなく、この時代に台頭した市民階級でした。

デンマークの画家たちは、ささやかな日常の礼賛のうちに、自らのアイデンティティを探し求め、見出しました。黄金期に展開した、素朴で穏やかな「市民の芸術」とその価値観は、近代デンマーク文化の基層となり、後の世代の画家たちに受け継がれました。

  • クレステン・クプゲ《海岸通りと入り江の風景、静かな夏の午後》
    クレステン・クプゲ《海岸通りと入り江の風景、静かな夏の午後》
    1837年 デンマーク国立美術館蔵 SMK, The National Gallery of Denmark SMK Photo/Jakob Skou-Hansen
  • ダンクヴァト・ドライア《ブランスー島のドルメン》
    ダンクヴァト・ドライア《ブランスー島のドルメン》
    1842-43年 ブランツ蔵 Denmark Brandts Museum of art and visual culture
  • コンスタンティーン・ハンスン《果物籠を持つ少女》
    コンスタンティーン・ハンスン《果物籠を持つ少女》
    1827年頃 デンマーク国立美術館蔵 SMK, The National Gallery of Denmark SMK Photo/Jakob Skou-Hansen

2スケーイン派と北欧の光

1840年代のデンマークではナショナリズムが高まりを見せ、美術においても王立美術アカデミーを中心にデンマーク固有の風景や伝統的な慣習を残す人々の暮らしを描くことが推奨されました。そうした時代背景のなか、1840年代以降、「未開の地」ユラン(ユトランド)半島へ足を延ばす画家が現れ、1870年代初頭、半島北端の漁師町スケーインが「発見」されます。

この地を訪れた画家たちが描く、独特の厳しい自然環境や、そこに暮らす漁師たちの姿などを通じてスケーインの評判は広まり、国境を越えてこの小さな漁師町に集う芸術家たちはスケーイン派と呼ばれるようになりました。フランスの印象派などの影響を取り入れたスケーイン派の美しい絵画は、19世紀末から今日まで、デンマークの人々を惹きつけています。

  • ミケール・アンガ《ボートを漕ぎ出す漁師たち》1881年 スケーイン美術館蔵 Art Museums of Skagen
    ミケール・アンガ《ボートを漕ぎ出す漁師たち》 1881年 スケーイン美術館蔵 Art Museums of Skagen
  • ピーザ・スィヴェリーン・クロイア《朝食-画家とその妻マリーイ、作家のオト・ベンソン》
    ピーザ・スィヴェリーン・クロイア《朝食-画家とその妻マリーイ、作家のオト・ベンソン》
    1893年 ヒアシュプロング・コレクション蔵 ©The Hirschsprung Collection
  • ピーザ・スィヴェリーン・クロイア《スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア》
    ピーザ・スィヴェリーン・クロイア《スケーイン南海岸の夏の夕べ、アナ・アンガとマリーイ・クロイア》
    1893年 ヒアシュプロング・コレクション蔵 © The Hirschsprung Collection

319世紀末のデンマーク絵画−国際化と室内画の隆盛

1891年に設立された「独立展」は、若手の画家たちに自由な作品発表の場を提供することによって、デンマーク画壇を活況に導きました。1893年にはファン・ゴッホとゴーガンの作品を展示するなど、外国の新しい芸術を紹介する場として、デンマーク美術の国際化に重要な役割を果たします。

また、1880年代以降のコペンハーゲンでは、画家の自宅の室内を主題とする絵画が人気を博しました。温かみのある家庭的な場面が数多く描かれ、そうした「幸福な家庭生活」のイメージを通じて、「親密さ」がデンマーク絵画の特徴のひとつとなったのです。一方、1900年頃には、無人の室内を描いた作品に象徴される、物語性が希薄な室内画が顕著になります。画家たちは居間や寝室を美的空間として捉え、絵画的要素の洗練された統合を追求していきました。

  • ヴィゴ・ヨハンスン《きよしこの夜》 1891年 ヒアシュプロング・コレクション蔵 © The Hirschsprung Collection
  • ヴィゴ・ヨハンスン《春の草花を描く子供たち》
    ヴィゴ・ヨハンスン《春の草花を描く子供たち》
    1894年 スケーイン美術館蔵 Art Museums of Skagen
  • カール・ホルスーウ《読書する女性のいる室内》
    カール・ホルスーウ《読書する女性のいる室内》
    1913年以前 アロス・オーフース美術館蔵 ARoS Aarhus Kunstmuseum / © Photo: Ole Hein Pedersen
  • ピーダ・イルステズ《ピアノに向かう少女》
    ピーダ・イルステズ《ピアノに向かう少女》
    1897年 アロス・オーフース美術館蔵 ARoS Aarhus Kunstmuseum / © Photo: Ole Hein Pedersen
  • ピーダ・イルステズ《縫物をする少女》
    ピーダ・イルステズ《縫物をする少女》
    1898-1902年 リーベ美術館蔵 Ribe Kunstmuseum, Denmark Photo: ©Ribe Kunstmuseum

4ヴィルヘルム・ハマスホイ−首都の静寂のなかで

  • ヴィルヘルム・ハマスホイ 《寝室》
    ヴィルヘルム・ハマスホイ 《寝室》1896年 ユーテボリ美術館蔵 Gothenburg Museum of Art, Sweden © Photo: Hossein Sehatlou
  • 「室内画の画家」として知られるヴィルヘルム・ハマスホイ。コペンハーゲンで生まれ、王国の歴史が降り積もった建物や、旧市街に建つ古いアパートの室内を繰り返し描きました。

    画業の初期には肖像画や人物画、風景画に取り組んでいましたが、1890年代半ば頃から徐々に室内画が創作活動の中心になり、1898年に移り住んだストランゲーゼ30番地の自宅を描いた一連の作品によって、独特の表現と、国内外からの名声を獲得します。以降、1916年にこの世を去るまで、コペンハーゲンの異なる住宅で暮らしながら、その古い室内を描き続けました。その洗練された美的空間は、急速に発展を遂げる首都から消えていく古い文化の残映のように、近代の都市生活者に特有の郷愁と、ある種の諦念を誘う、静謐な空気を漂わせています。

  • ヴィルヘルム・ハマスホイ《農場の家屋、レスネス》
    ヴィルヘルム・ハマスホイ《農場の家屋、レスネス》1900年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen
  • ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》
    ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》
    1898年 スウェーデン国立美術館蔵 Nationalmuseum, Stockholm / Photo: Nationalmuseum
  • ヴィルヘルム・ハマスホイ《背を向けた若い女性のいる室内》
    ヴィルヘルム・ハマスホイ《背を向けた若い女性のいる室内》
    1903-04年 ラナス美術館蔵 © Photo: Randers Kunstmuseum
  • ヴィルヘルム・ハマスホイ《聖ペテロ聖堂》
    ヴィルヘルム・ハマスホイ《聖ペテロ聖堂》
    1906年 デンマーク国立美術館蔵 SMK, The National Gallery of Denmark SMK Photo/Jakob Skou-Hansen
  • ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内―開いた扉、ストランゲーゼ30番地》
    ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内―開いた扉、ストランゲーゼ30番地》
    1905年 デーヴィズ・コレクション蔵 The David Collection, Copenhagen
  • ヴィルヘルム・ハマスホイ《カード・テーブルと鉢植えのある室内、ブレズゲーゼ25番地》
    ヴィルヘルム・ハマスホイ《カード・テーブルと鉢植えのある室内、ブレズゲーゼ25番地》
    1910-11年 マルムー美術館蔵 Malmö Art Museum, Sweden